やる気とのバランスを考えたチーム医療。
「学生の時に病院実習で行った整形外科で、患者さんがみるみる回復されていく姿を見て、やりがいを感じ興味をもちました」と、群馬県前橋市の善衆会病院で働く矢島由貴さん。同院はスポーツ障害の前十字靭帯損傷、半月板損傷、病気やケガで生じる脊椎疾患の手術や治療を行い、社会復帰やスポーツ復帰に向けた患者さんをチーム医療で支援している。この分野では名の知れた病院である。
矢島さんはここで働き始めて2年目。「スポーツ選手や国体選手などスポーツ障害を負った患者さんは、早く復帰したいという焦りやまわりからの期待に応えたいという思いから、リハビリを頑張りすぎてしまう方も多くて、心のケアの大切さと難しさを同時に経験しています」と言う。しかし、退院・復帰というゴールを共に目指していくのは看護師ばかりではない。医師、OT・PT・ST、管理栄養士、医療安全管理者が参加する週1回の合同カンファレンスで多種多様なニーズや情報を共有し、一人ひとり違う患者さんの意向を踏まえ、やる気とのバランスを取りながら、チームで退院までを支えている。
見守る姿勢と声かけのタイミングを大切にした支援。
一方、日本人の平均寿命がのびているため、患者さんも高齢化している。以前なら行わないことが多かった手術を高齢の患者さんに行うことも増えてきた。とは言うものの術後に待っているリハビリを毎日続けることは、高齢者には負担が大きい。何とかして前向きな気持ちになってもらえるように、ちょっとした変化を言葉で伝えるようにしているという。「そうやって褒めてもらえると、やる気になるよ」との反応が返って来た時、矢島さんは心の中で嬉しさを噛み締めている。最近では、「今日、矢島さん居るの?」と、患者さんからリクエストされることもあり、信頼関係も築けるようになってきた。学生の頃に感じた整形外科での目に見える手応えとやりがいを今の病棟で実感する中で、「看護師の役割のひとつに“患者さんの療養上のお世話”がありますが、それは決して患者さんを甘やかすことではなくて、患者さんが自分でできることはやってもらうことなんです。そのためには見守る姿勢も大事です」と言う。恐怖心から最後の一歩が踏み出せずにいる患者さんの気持ちを傾聴しながらも、その背中をポンと押す……。絶妙なタイミングを見計らって発せられるひと言が患者さんを勇気づけることになる。そして退院を迎えた患者さんから「ありがとう」と笑顔で言われた時が、矢島さんにとって一番嬉しい瞬間だとも付け足してくれた。
「いつか認定看護師をめざしたいので、まず大学院へ行って看護の勉強を深めたいです」と語る目には、次の目標が見えていた。
矢島 由貴さん
2012年3月入職
南2階(整形外科・スポーツ整形外科)病棟勤務
術後の不安が大きくなかなかリハビリを始めようとしない患者さんに対して、車いすをベッドサイドにおいたまま、その場を離れて遠くから見守っていたところ、患者さんは自力でトイレまで移動されました。翌日、「あなたに背中を押されなかったらリハビリをしようと思わなかったし、ずっとベッドに寝たきりでした」とお礼を言われ、少しは役に立てたのかなと思いました。
1日のスケジュール
善衆会病院
〒379-2117 群馬県前橋市二之宮町1381
担当/総務課 舘野・井上
TEL(027)268-3321
http://www.zensyukai.com/
e-mail : kyujin@zensyukai.com
地域の中核病院として、整形外科(スポーツ医学研究所併設)、泌尿器科、内科、外科、リハビリテーション科の診療を行い、今年設立30周年を迎える。特にスポーツ整形外科は全国的にも有名で、靭帯断裂形成手術では、全国トップクラスの症例数を誇る病院である。入院患者さんの中にはオリンピック選手やサッカー選手、国体選手も多く、選手生命を掛けて早期回復を求めて他県からも来院する。サッカーのザスパ草津のチームドクターも務めている。
ここの看護に注目!
小児から高齢者までの整形外科およびスポーツ整形外科での手術を行い、社会復帰、スポーツ復帰に向けた退院支援を他職種からなるチームの一員として行う。看護師は患者さんのつらいリハビリの毎日をメンタル面で支える役割も担う。心身ともに元気になって退院される患者さんの姿を見られることが、看護の醍醐味でもある。
主要疾患:
前十字靭帯損傷、半月板損傷、変形性膝関節症、膝蓋骨脱臼、腰椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症など