限られた環境の中で看護は知恵と工夫が必要。
訪問看護師として13年のキャリアを持つ大田真紀子さん。現在は埼玉県越谷市の越谷ロイヤル訪問看護ステーションでその経験を活かしている。病棟勤務だった頃、患者さんの退院後の生活が気になり、在宅での看護に興味を持ったという。また、ターミナルにおける患者さんと家族への対応に物足りなさを感じていたことも、訪問看護をしたいと思ったきっかけだ。
同ステーションでは9名の訪問看護師、3名のリハビリスタッフが、110〜120人を受け持っている。病院での看護体制とは大きく異なる訪問看護だが、実際はどのような点が違うのだろう?
最初は環境の違いにカルチャーショックを受けたと言う大田さん。「病院は治療をする場所ですが、家は生活をする場所なので、食事の時間や寝る時間などは患者さん次第。病院では患者さんが病院に合わせますが、在宅では私たちが利用者さんの生活時間に合わせることになります」。その環境は1件ずつすべて異なる。それぞれにルールがあることも認識しておかなければならない。「日常生活をしている場所には医療器具や治療に必要なものはありません。『点滴はどうやってかけたらいいのだろう?』と考えなければなりません」。考えただけでも大変だ。しかし大田さんはそれを楽しんでいる様子。「家にはS字フックはありませんから、代替品は何かないかと知恵を絞って考えます。限られた環境の中で工夫をしていくことが、訪問看護では大事です」。
余裕を持って介護をしてもらうために細やかな配慮を。
訪問看護において主役は自分たちではなく利用者さんやご家族だ。大田さんは何が苦痛か、どのようなことに悩んでいるか、その苦痛をやわらげるにはどのように関わっていけばいいかを、アセスメントしながら見つけていく。そして、何もかもが教科書通りにいくとは限らない。「こちらがいいと考えていることでも、家族にとっていいとは限りません。それぞれのご家族の中でキーパーソンは誰なのか、話の種類によって誰と関係を築いていけばいいのかは違います」と、その関係構築の難しさを強調する。看護・介護をしていく方が行き詰まることのないよう24時間、楽しくお世話をしていってもらいたいと大田さんは考える。そのためにも、分かりやすい言葉で、トラブルがあったときにも不安にならずにすむように、細かな点までアドバイスをしている。例えば『いかにおむつを小さく畳むか』といった生活に即した配慮も必要だ。大田さんは、家族が自信を持って看護・介護ができるまで頻繁に通いながら、時にはパンフレットなども準備してサポートする。
さらに多職種との連携は欠かせない。ドクター、リハビリスタッフやヘルパー、ケアマネジャーなどとの連携があってこそ、本当に必要な訪問看護が実現できる。訪問看護師にはさまざまな知識や技術が求められるが、リハビリスタッフと同行することで、自宅でのリハビリの勉強もでき、自分のスキルアップにもつながる。今後は多職種との情報共有をさらに深めていきたいという。
毎日の訪問を通して、周囲を明るくする大田さんは、「もっと多くの人に私たちの訪問看護を知ってもらいたい」と話す。この笑顔に救われて精神的にも身体的にも楽になっている利用者はたくさんいることだろう。
毎日のカンファレンスでは、ご家族が余裕を持って看護・介護をしてもらうために、生活リズムに合わせた指導方法などを話し合う
大田 真紀子さん
2014年5月入職
越谷ロイヤル訪問看護ステーション
勤務
1日のスケジュール
新越谷病院・越谷ロイヤル訪問看護ステーション
〒343-0813 埼玉県越谷市越ケ谷1-11-33
担当/訪問看護 鈴木由香子
TEL(048)964-5331
http://www.ims.gr.jp/shinkoshigaya/
e-mail : shinkoshi.houmon@ims.gr.jp
急性期・慢性期医療を担う新越谷病院は、地域包括支援センターを併設し、『愛し愛される病院』を理念に医療・介護を実践している。健康診断や回復期リハビリテーション病棟の設置などを行い、切れ目のない医療を提供している病院である。越谷ロイヤル訪問看護ステーションでは、110〜120人の在宅医療・訪問看護を担当している。訪問看護師がリハビリスタッフをはじめ多職種と在宅における医療処置、日常生活の看護、リハビリテーション、さらに介護者の相談にものり、悩みや不安などを軽減できるよう利用者さんとご家族に寄り添った看護を行っている。
特に求められる能力
主要疾患:
がん患者のうち緩和へ移行〜終末期の疾患、脳梗塞後遺症・循環器・呼吸器疾患など