脳卒中で生活が一変した患者さんの心への配慮。
秋田県は脳卒中での死亡率が高く、その予防と治療に取り組んできた歴史がある。古くからその中心的役割を果たしてきた、秋田県立脳血管研究センターの脳神経外科に勤務する猿田真紀子さんは、身近にも脳卒中になる人がいたことから、脳神経分野の看護の道を選んだという。
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血等の脳血管障害によって起きる脳卒中は、その患者さんのほとんどに手足の麻痺や感覚障害などが出現するという特徴がある。猿田さんの勤務する病棟には、脳卒中で手術を受けた後の患者さんや安定期に入った患者さんが入院している。多くの患者さんは「それまでの自分と変わってしまったことを受容する間もなく、治療やリハビリテーションが開始されることもあります」と話す。
ここでの看護には、患者さんやご家族の気持ちをしっかり受け止められるようコミュニケーションは欠かせない。「『自分の身体』について受け入れられないまま、不安を抱えながら治療・リハビリテーションを行わなければならない患者さんが、少しでも安心・安全な環境で生活していけるように一人ひとりの状態にあわせたケアや関わりを心がけています」と猿田さん。
術後で容態が不安定な患者さんに関しては、疾患や服用薬剤の特性を踏まえ、神経症状と麻痺の状態をこまめに観察し、異常が見られればすぐに医師に報告をするなどの対応も必要となる。
リハビリテーションの視点を持って関わる。
「手術直後から社会復帰に向けた関わりをしていきます」と言う猿田さん。脳卒中は、術後早期からのリハビリテーションが欠かせない。同センターには経験を積んだ理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等が勤務しているため、情報共有しながら、チームでケアを行うことになる。「昨日よりも今日、機能的に進歩が見られた時は、一緒に喜び努力を認めながら、できるようになったことはなるべくご自分で行ってもらうようにサポートしていきます」。
しかし、気をつけなければいけないのは、一見リハビリテーションも進み、回復しているかのように見えても、心疾患、糖尿病、高血圧等の基礎疾患があると、病状悪化の潜在的なリスクが大きいこと。「顔色はもちろん、バイタルサイン、肺の音、皮膚の状態を注意して看ています」と猿田さんは話す。
麻痺や感覚障害があると褥瘡発生リスクが高まるため、褥瘡ケアのスペシャリストが必要と考え、2年前に皮膚・排泄ケア認定看護師の資格を得ることを決意。無事に取得した現在は、他病棟でも適切な体圧分散寝具の選択やスキンケア等についてスタッフにアドバイスするなど、活動の幅も広がった。また、脳神経外科手術は手術時間が長く、同じ体位でいることで褥瘡リスクが高まるため、最近では、手術室と連携し、術中・術後の皮膚トラブル防止の取り組みも始めているという。
今後は、センター内全体の褥瘡予防やスキンケアのレベルアップを行い、患者さんのQOLのさらなる向上を目指したいと話してくれた。
猿田 真紀子さん
1993年4月入職
3階(脳神経外科)病棟勤務
「すごく上手です ありがとう 一番」。これは、延髄梗塞で気管切開を行い呼吸器を装着されていた患者さんの痰の吸引後、筆談でいただいた褒め言葉。認定取得に向けて学校に入る直前で、漠然とした不安を抱えていた時のことでした。吸引を褒めていただいただけですが、認定取得への背中を押してくださったようでとてもうれしく、宝物として今も自分の部屋に飾ってあります。
看護師ミーティングでは、チーム内の患者さんの看護計画を見直したり、適切な体圧分散寝具が使用されているかなどが話し合われる
1日のスケジュール
秋田県立脳血管研究センター
〒010-0874 秋田県秋田市千秋久保田町6-10
担当/看護部 成田
TEL(018)833-0115(代)
http://www.akita-noken.jp/
秋田県民の『脳卒中の撲滅』という願いにより、1968年に設立。以来、『脳卒中の診療、研究を通して、最善の予防、診断及び治療の方法を確立し、県民の健康福祉の増進に寄与するとともに、医学の向上に貢献する』という理念のもと、脳卒中を中心とする脳神経疾患と循環器疾患患者さんの救命、回復に向けての研究を進め、その成果に基づいた診療を行っている。予防についても各種情報発信をするほか、専門医の育成、脳卒中の救急医療を担うスタッフ養成など教育活動にも力を注ぐ。
ここの看護に注目!
脳血管の閉塞や出血により発症する脳卒中は、発症部位や程度により麻痺や神経障害などの後遺症も異なる。そのため個々の状態に応じたケアが必要となる。突然発症する疾患でもあるため、患者さんやご家族への精神面でのフォローも欠かせない。早期リハビリが社会復帰を左右するためリハビリスタッフとの連携も重要。
主要疾患:
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、慢性硬膜下血腫 など