手術直後の些細な変化も見逃さないアセスメントが重要。
120年の歴史と伝統を持つ岩手医科大学附属病院。その中の心臓血管外科に勤務する吉田奈々子さんは、同院に入職して15年、心臓血管外科に配属となって6年というキャリアを積んだ看護師だ。吉田さんに心臓血管外科において重要な点はどういったことか聞いてみると「多岐にわたるクリティカルケアの専門知識や技術、状況に応じた柔軟な対応が必要です」と言う。手術直後はどのような変化が起こるが分からない。密な循環管理が必要となり、患者さんの些細な変化を見逃さないアセスメントが重要になる。特に乳幼児のケアには細心の注意が必要だ。乳幼児の変化は早く、瞬時の判断が重要。顔色、血圧、脈拍など、細かい観察力と判断力が求められる。
また、「特殊な状況下での心理的なサポートが非常に大切と考えています」と吉田さん。手術が終わった患者さんは、点滴の管や人工呼吸器などに取り囲まれ、特殊な状態である。目が覚めるとそんな自分の状態にショックを隠せない患者さんもいるという。「声かけをしながら、患者さんが安心できる状態を作るよう心がけています」と吉田さん。ショックを受けるのは患者さん本人だけではない。家族の精神面におけるフォローも大切だ。中でも先天性疾患などで入院している新生児の家族への配慮は、人一倍注意を払わなければならないという。
患者さんの想いを理解し、それを叶える。
メンタル面におけるフォローを大事にしたいと考える吉田さんは、「病棟に臨床心理士がいると看護師も助かります」と言う。さらに自らも精神的な分野を専門的に勉強したいという希望を持つ吉田さんには、こんな経験があった。
生まれてまだ間もないある乳幼児。状態が急変し緊急入院となり数日で終末期へ。懸命な治療を行ったが限界となり、両親はこれ以上の治療は望まないと決意。吉田さんは「ご両親の望むことをしてあげたい」と強く思ったそうだ。希望は「抱っこがしたい」ということ。しかし、人工心肺をしていたため、動かすのも難しい状態で抱っこは無理、と主治医から言われてしまう。しかし、ご両親の想いを叶えてあげたい一心で、医師、臨床工学士、看護師と6~7人の協力を得て、赤ちゃんをご家族の腕に抱かせてあげることを実現した。ご両親の「夢のよう」という言葉は、吉田さんにとって忘れられない言葉となっている。
それが実現できたのも、経験と専門知識、技術、スタッフの協力があったからであろう。そしてそれを実現させたのは、患者さんやご家族の想いを大切にしたい、という吉田さんの信念があったからこそ、成せたことであったに違いない。しかし吉田さんは言う。「これで本当によかったのか、もっとできることがあったのではないか、といつも考えてしまうんです」。やりがいを感じていても、看護師としての“満足”は得られない。それは看護師の永遠の課題なのかもしれない。「ジレンマを感じる」と言いながらも、もっとできることを探し求めている吉田さん。エネルギッシュで生き生きとした姿が印象的であった。
乳幼児の急変は即、生命の危機につながる。的確なアセスメントが重要。家に帰れない患児のために1ヵ月記念や誕生日にはスタッフの寄せ書きやプレゼントを渡しメモリアルを共に祝っている。
吉田 奈々子さん
2000年4月入職
循環器5階・ICU(心臓血管外科)病棟勤務
1日のスケジュール
岩手医科大学附属病院
〒020-8505 岩手県盛岡市内丸19-1
担当/総務部人事職員課 採用担当
TEL(019)651-5111(代)
http://www.iwate-med.ac.jp/hospital/
e-mail : jinshoku@j.iwate-med.ac.jp
循環器医療センター、歯科医療センター、附属PET ・リニアック先端医療センター、附属花巻温泉病院を擁し、トータルで患者さんを診る岩手医科大学附属病院。最新機器・最先端技術による先進的な医療を提供する傍ら、予防医療・予防医学に尽力し、健康寿命の延伸に取り組んでいる。2017年には120周年を迎え、その記念事業の一環として矢巾地区への附属病院移転を進行中。高度治療・入院機能を持つ1,000床規模の特定機能病院として、親しみのある安心感のある病院をモットーに、2019年に開院予定。
ここの看護に注目!
手術直後の患者さんの容体は、いつ、どのように変化するか分からない。目の離せない状態が続く。些細な変化も見落とさないアセスメントと同時に、患者さん本人とご家族に対するメンタルケアが求められる。また、リハビリに消極的な患者さんには、専門的な視点から対応してもらうために、PT・OTたちとの連携も重要だ。
主要疾患:
虚血性心疾患、心臓弁膜症、先天性心疾患