高齢の患者さんならではの気遣いと工夫が必要な現場。
75歳以上の患者さんのうち、内科疾患を持つ方を総合的に診療する東京医科大学病院の高齢診療科。もともと高齢の方と話すのが大好きで、この病棟を希望して配属されたという藤原禎子さんは、毎日笑顔で患者さんに接している。
高齢の患者さんは、ADL介助の必要度が高く、認知症や複数の疾患を抱えている人も多い。そのため「患者さん一人ひとりの全体像を把握したうえで看護を行うことがとても大切です」と、藤原さんは言う。これは、今やどの診療科でも同じかもしれない。しかし、認知症があったり、疾患のために精神的機能の低下が見られる人も多い中で、一人ひとりの全体像を捉えていくためには、この病棟ならではの工夫と気遣いが必要となる。
保清などを行いながらの会話は、「出身地の話題からパートナーとの出会いなど、昔のことからお聞きします。認知症をお持ちの方でもよく覚えていらっしゃいますから。そして、現在のお住まいやご家族のお話につなげていくと、看護に役立つ情報も得られます」と、藤原さん。認知症があっても、その人の背景を理解したうえでじっくりと会話を重ね、その患者さんがどうしたいのか、意思を確認するようにしているという。多職種との情報交換やご家族からの情報収集も欠かせない。
記録などの業務は集中して短時間で行い、なるべく患者さんのそばにいるように心がけている藤原さん。話をする際には、「人生の先輩として、言葉遣いには特に気をつけています」と、患者さんの尊厳に対する配慮も忘れない。
あらゆる疾患に対応するためもっと専門知識を身につけたい。
高齢の患者さんが入院する病棟というと、落ち着いた雰囲気を想像してしまうが、ここはあくまで急性期医療を担う大学病院。常に動きがある。「ほとんどの患者さんが心電図モニタを装着されていますし、急変リスクの高い方もいらっしゃいますから、常に緊張感がありますね」(藤原さん)。そんな病棟だからこそ、笑顔で退院する患者さんを見送る時の感動は大きいという。
ひと言で『退院』といっても、ADLの低下や認知症のある患者さんの場合には、本人や家族への情報提供や地域資源の調整を、より綿密に行っていく必要がある。藤原さんは、次のように話す。「ご自宅でのケアの方法を丁寧に説明し、訪問診療や訪問看護・介護の導入の調整を、MSWや地域の専門職と一緒に行った結果、『これで安心して帰れます』と笑顔で言っていただけた時には、諦めないでがんばってよかったと、心から思いましたね」。
急変時の対応から、緩和ケア、地域資源、そしてあらゆる疾患に関する知識を身につけておかなければならない高齢診療科の看護師。さらに薬の知識も大切だという。「病棟で、患者さんの一番身近にいるのは看護師ですから、様子を見て薬が合っていないようであれば、主治医に情報提供をして、調整してもらうこともあります」と藤原さん。
これからさらに高齢化率が上がることを見据え、もっと専門的な知識を身につけていくことが現在の目標。そしてゆくゆくは、後輩育成にも携わっていきたいと、夢を語ってくれた。
藤原 禎子さん
2009年9月入職
15階西(高齢診療科・神経内科)病棟勤務
患者さんから、「いつも『頭を洗いましょうか』と聞いてくれますね。前に入院した時も、藤原さんが頭を洗ってくれたんですよ」と、声をかけていただきました。清拭などに比べ、どうしても回数が少なくなってしまう洗髪。でも自分だったらと考えると、洗ってほしいと思うはずです。これからも、患者さんの立場に立って、どうしたら笑顔になれるかを考えていこうと再確認しました。
電子カルテも導入されて情報共有や連携が効率的になった分、ベッドサイドでの時間を増やしたり、後輩の指導にも力を入れている。
1日のスケジュール
東京医科大学病院
〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1
担当/看護部
TEL(03)5339-3733(直)
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/
e-mail : s-kango@tokyo-med.ac.jp
1931年5月に東京医学専門学校(東京医科大学の前身)附属淀橋診療所として開設。その後、淀橋病院と改称。1946年5月、東京医科大学の設立認可と同時に東京医科大学病院となる。現在に至るまで、東京西部地区の基幹病院として地域医療機関と連携しながら医療を提供している。近年では特に患者さんへの迅速な対応に力を入れ、総合相談・支援センターも開設。また、2016年に東京医科大学の創立100周年にあわせ、新病棟の建設が進行中。現病棟の改装も予定している。
ここの看護に注目!
高齢者は一人で多くの病気、慢性の病気をもっており、さらに、薬物による副作用が出やすいという特徴がある。そのため、身体面ばかりではなく、精神・心理面、生活機能面、社会・環境面といった総合的な視点をもった看護が必要となる。環境の変化により、せん妄が出たり、認知症が悪化したりする危険性もあるため、入院時から早期退院と退院後を見据えた多職種連携が欠かせない。
主要疾患:
認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症)、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)、パーキンソン病、肺炎(細菌性肺炎、誤嚥性肺炎)、悪性リンパ腫、尿路感染、心不全 など