ちょっとした変化に気づき疑問をもつこと。
集中治療が必要な、重篤な状態の患者さんの治療が行われるICU。岐阜県において他に先駆けその設備を整えてきた松波総合病院のICUで働く桒原成郎さんは、『よりよい看護を提供したい』と一昨年、集中ケアの認定も取得した。
ここで治療を受けるのは、予定手術後の患者さん、救急医療センターからの患者さん、病棟で急変した患者さんなどさまざまだ。一般病棟と違い、ICUの患者さんは短時間で変化することが予測されるため、いつでも急変に対応できるよう、ベッドサイドに目の届く場所での仕事となる。「機敏さが求められることはもちろん、常に緊張感を持って、モニターの数値に現れない変化も読み取らなければなりません」と桒原さんは言う。
患者さんは手術後や外傷等の侵襲によって、身体の予備能が少なく、小さな変化から急激に状態悪化へとつながってしまうことも。呼吸器を着けていて話すことの難しい患者さんや、意識レベルの低い患者さんが多いため、「ちょっとした仕草などから訴えを汲み取ってフィジカルアセスメントをする能力は非常に重要だと思います」と桒原さん。「話せる方でも、ちょっと前まで普通に話せていたのに急にろれつが回らなくなって、CTを撮ってもらうと脳梗塞が始まっていたり、何か落ち着かない患者さんが重篤な合併症を発症していたりということがあります」。変化に気づき疑問を持つことを何より大切にしている。
一つひとつのケアにも慎重なアセスメントが必要。
「ICUに入られる患者さんは、ほとんど意識がありません。目覚めてから、違う環境にいることに混乱する方もいらっしゃいます」。そんな患者さんに、少しでも落ち着いて安全に治療を受けてもらうための声かけも大切な看護の一部だ。患者さんの欲求を満たしつつ、状況や治療の必要性を説明していくコミュニケーション能力も必要となる。
また、重篤な状態の患者さんに対する日々のケアは、慎重なアセスメントとセットになっている。たとえば褥瘡予防のための体位変換ひとつでも、ICUの患者さんの場合は少し身体を傾けただけで血圧低下につながることもある。桒原さんは「これが患者さんにどんな影響を及ぼすのか、身体の生理的な反応を理解しアセスメントをして、本当にその看護でいいのかと選択していきます」と言う。
そんな桒原さんたちICUスタッフが目指すのは、患者さんの社会復帰だ。状態を見ながら少しでも早期離床を促すことを心がけている。その後の機能回復に大きく関わってくるからだ。桒原さんは言う。「今この瞬間の看護が、この方の人生を左右することもあると考えています。ここは、この方にとっての新しいスタートの場だと思っています」。
桒原 成郎さん
2013年8月入職
ICU勤務
ICUの患者さんは、その時のことは覚えていらっしゃらないことがほとんどです。せん妄状態になられる方もいます。長くICUで治療をされていた患者さんに病棟でお会いした時、「あなたのことはよく覚えています。苦しい時に優しく声をかけてくれてありがとう」と声をかけてくださいました。良い記憶として残る看護をこれからも続けていきたいと思うひと言でしたね。
社会復帰に向け早期からリハビリを取り入れているため、必要に応じてリハビリ職種も一緒にカンファレンスを行う
1日のスケジュール
松波総合病院
〒501-6062 岐阜県羽島郡笠松町田代185-1
担当/経営管理部人事課 矢﨑
TEL(058)388-0111(代)
http://www.matsunami-hsp.or.jp
e-mail : jinji@matsunami-hsp.or.jp
1933年に松波外科医院として創設以来、地域中核の社会医療法人の病院として『地域住民の皆さまに安全で質の高い医療・福祉を効率的かつ継続的に提供する』ことを理念に、24時間対応の救急医療や一般急性期医療への対応に努めている。2011年度秋から災害時派遣医療チーム(DMAT)を編成し、災害拠点病院の指定を受けている。がん診療に関しては、2011年度よりロボット手術支援装置『ダヴィンチ』による手術を導入。地域全体の医療の質の向上をめざし、地域の診療所だけでなく種々の介護施設との連携を密にしつつ、医療・介護の地域の拠点としての機能も果たしている。
ここの看護に注目!
集中ケアを必要とする状態の患者さんに対する集中治療が行われるICUでの看護には、さまざまな状態に対応できる柔軟な判断力と、どんな緊急事態でもあわてず、正確に素早く動ける冷静さが求められる。また、大きな心理的プレッシャーにさらされている患者さん本人への声かけやケアができることも重要。急変しやすい状態の患者さんが多いため、少しの変化に気づき、対応ができる観察力も求められる。
主要疾患:
急性呼吸不全、ショック性循環器不全、急性循環器不全、意識障害、大手術後、多発外傷 など