感覚も大切にしつつ根拠立てて説明する。
「看護師は何でも屋さん。それならば利用価値のある看護師になりたい」と語るのは、東京武蔵野病院の精神科救急病棟に勤務する有本慶子さん。急性期の患者さんは、幻覚や妄想による精神運動興奮が激しく、非自発的な入院をされる方が多い。そのため薬剤の必要性や自分自身で体調悪化のサインを見過ごさないように『早期警告サイン』を一緒に考えるなどしながら、3ヵ月以内の退院を目標に、入院時から退院に向けて支援を行っている。「入院時に壮絶だった患者さんが退院する時には、達成感があります」と有本さん。
彼女が日常の看護をするうえで心がけていることは、患者さんの悪いところばかり見ないで、できることも見るようにすること。その視点がなければ、退院に向けての話もうまく進まないという。また、精神科では形のないものを相手にすることが多いので、感覚だけでなく、客観性をもって判断できるように考え、話すことを心がけている。そして、他職種との関わりも多い中では、誰もがわかりやすい共通言語で話すようにしている。『感覚+根拠』のバランスが大切なのだろう。
「場合によっては患者さんへの行動制限、面会制限なども必要となります。その時には人権を守りつつ、制限が過度にならないように心がけています」。精神科ならではの繊細な対応が求められる分野である。
多職種の連携により患者さん中心の看護を実現。
有本さんは、2009年1月に入職し、その後大学院へ通うために一旦は退職したが、再入職したという経歴をもつ。「大学院へは専門看護師(CNS)の資格取得のために通いました。その間に他の病院を見る機会もあり、一度離れてみたことで視野も広がり、ここの居心地の良さがわかりました」。同院には、有本さんのように目標をもって、再入職を希望してくる看護師も多い。現在4名のCNSが在籍し、専門性をもった医療・看護を共に実践できることで、看護師だけでなく全職員の意識を高め、良い刺激になっているという。
時には、患者さんの退院に向けて、または悪化して再入院しないためにはどうしたら良いかなどを話し合う関係者会議が開かれる。医師、薬剤師、栄養士、精神保健福祉士、心理士、作業療法士等と連携し、チームで課題を解決していく。「職種の垣根がないことは、同じ目標である“患者さんにとってよりよい支援"を追求するにはとても動きやすい環境です」と、居心地の良さの一端を語る有本さん。当たり前のことを自然にできる環境が整っていることは、理想の医療や看護を追求していくうえで重要だ。そのことを理解している有本さんの言葉には説得力があった。
今後の目標は、院内で5人目のCNSになることと、現場で後輩の指導をすることと、意欲的に語る顔には満面の笑みがあふれていた。
有本 慶子さん
2009年1月入職
E館3階(精神科救急)病棟勤務
入院時に着替えを強く拒んだある患者さんに、無理強いはせず一旦そのままにした経緯がありました。その後、回復し退院が決まった頃から、自殺を宣言するようになり、ある日自殺について話していると、「もう自殺はしない。あなたにはこれで2回も助けられた」と言われました。入院時のことを「助けた」と受けとって覚えていてくれたことと、私の話を2回ともしっかり聞いてくれていたことに対して「ありがとう」という気持ちになりました。
退院支援、他院への転院に向けて、他職種による連携は欠かせない。そのため日常的に情報共有する
1日のスケジュール
東京武蔵野病院
〒173-0037 東京都板橋区小茂根4-11-11
担当/事務管理部人事課 梅本雅士
TEL(03)5986-3124(直)
http://www.tmh.or.jp/
e-mail : jinji@tmh.or.jp
1943年開設以来、精神科の急性期から慢性期まで幅広い分野を扱うことで全国的にも知名度のある病院。精神医学研究所という研究機関を母体とする医療機関であり、我が国の精神科医療のパイオニア的存在である。病床数686床と規模も大きく、『私たちは常に病める人の立場に立ち真心をもって、医療の実践に努め、最高の医療サービスと信頼されるケアを提供しつづけ健康と安心できる生活の向上に貢献します』を病院理念とする。2006年からは医療観察法に基づく鑑定入院・通院医療も実施している。
ここの看護に注目!
精神科救急病棟では、安全第一の看護が重要である。急性状態にある患者さんの場合は、お互いの安全を考えつつセルフケアを行う。その際に看護師はSOSを出してもらえる対象であることと患者さんの需要を満たすことが大切な要素となる。十人十色の患者さんに対して、小さな変化を見逃さない観察力と需要の見極めをする判断力が求められる。
主要疾患:
統合失調症、躁鬱病、うつ病、認知症、精神発達遅滞、人格障害 など