術前術後の不安を和らげるために。
「“今日、横山さんいらっしゃいますか?”と、患者さんやそのご家族の方から声をかけてもらえると、自分の存在価値を認めてもらえたようで嬉しいです」と笑顔で話す北斗病院の横山詩央美さん。消化器疾患の手術を前提とした患者さんが多く入退院する急性期病棟で働いている。患者さんは環境が変わり、手術を目前にして表情も暗くなりがちだが、そんな方に横山さんは「患者さんの一番近くで何でも話してもらえる存在になりたい」と言う。術前には手術当日までの流れや術後の注意点などを一通り説明し、それでも不安が消えない方には、個別での丁寧な説明を心がけている。不安の種類と原因、その対処法についてはそれぞれの患者さんに工夫を加えながら説明をするが、まだまだ悩みは尽きない。「毎日午後から病棟でカンファレンスがあります。悩んだり迷ったりする時には、チームの先輩に相談できるので心強いです」。一つの命を守るために多くのスタッフが関わってチーム医療を展開している。また、看護師には患者さんの心の声に耳を傾け、安心感を抱いてもらえるような傾聴スキルが必要になる。「ご納得いただけると患者さんの表情が変わり、出てくる言葉に変化が現れて、前向きになっていくのが分かります。その後、食堂などでTVを観ている姿を見ると、少しは余裕が出てきたかなと思いますね」。横山さんは、患者さんのちょっとした言葉や行動の変化によって、心の声を感じている様子が伺える。
今日の笑顔は、過去の関わり方の結果から生まれる。
横山さんは、ある患者さんとの関わりが忘れられないという。手術をした70歳代の男性で一度退院されたが、その後再度入院されてきたその患者さんは、2度目に運ばれて来た時には腸閉塞を起こしており、緊急手術になったという。術後は口からの食事が難しい状態となり、点滴で栄養摂取をすることが退院後も続く結果となった。患者さんの退院に向けて、横山さんはご家族も含めて点滴の管理や室内での移動方法などを指導した。その後無事に退院日を迎えた患者さんから「横山さんの手厚い看護でここまで来られた。ありがとう」とお礼を言われた。師長が「退院後は大丈夫でしょうか?」と声をかけると、「横山さんにちゃんと指導を受けたから大丈夫」と言って帰られたそうだ。先日その患者さんと久しぶりの再会を果たした横山さん。「病院に来られた際にお話を伺ったんですが、点滴管理は特に液漏れなどのトラブルも無くできていると聞いて安心しました。患者さんの笑顔を見られたのも退院後の生活が無事に送れているからこそで、私たちの関わりの結果だと思うんです。心から“良かった”と思えました」と嬉しそうに語ってくれた。
入社して4年、看護師になった感想を伺うと、「人の命を預かっていると思うと責任もありますし、大変さを感じる時はあります。でもここまでやってこられたのもまわりの先輩や皆さんのお蔭です。3人の同期にも恵まれて、何でも話せる関係が築けています」と話す中にも看護師としての自覚と責任を感じている横山さんだが、人間関係に恵まれて、今日もたくさんの患者さんへ笑顔を届けていることだろう。
横山 詩央美さん
2011年4月入職
新棟2階(混合:主に消化器科)病棟勤務
化学療法で入退院を繰り返す患者さんから「あなたの顔を見ると安心するね」と言われたことがあります。日頃から『笑顔を忘れないこと』を心がけていた私には、ほかのどんな言葉よりも何倍も嬉しい言葉でした。入職間もない頃には、孫ほど年齢の離れた私に対して、患者さんがどこまで心を開いてくれるか不安もありました。しかし、まず私が笑顔で接することによって、相手との距離を縮められることを知ったひと言でした。
一人ひとりの患者さんの経過や今後のことなどを、病棟スタッフでじっくりと話合う時間は、横山さんにとっても勉強になる大切な時間。
1日のスケジュール
北斗病院
〒080-0833 北海道帯広市稲田町基線7-5
担当/看護管理室 副院長・看護部長 本田
TEL(0155)48-8000(代)
http://www.hokuto7.or.jp/
e-mail : tsukikoh@hokuto7.or.jp
北海道帯広市にある北斗病院は、「革新に満ちた医療への挑戦と新たなる組織価値の創造」を理念に、積極的に最新医療機器・技術の導入を行い、地域の急性期医療からリハビリ、在宅医療までのトータル医療を担っている地域の中核病院である。看護部は、先進医療の推進を課題のひとつに掲げているが、高度な医療にはスタッフ一人ひとりの能力もさることながら、チームとして組織としての力が必要であると考えている。北海道の広大な自然の中で『和の力』を大切に、患者さんの人権を尊重し、満足してもらえる看護の提供に努めている。
ここの看護に注目!
消化器疾患の急性期からターミナル期までの幅広い患者さんが多い。検査や手術、化学療法を受ける患者さんの心身両面の変化に気づく観察力とコミュニケーション力が必要となる。時には年代の違う患者さんの思いを代弁し、医師、ご家族との間を円滑につなぐ役目を担うこともある。日常生活に欠かせない食べることから消化して排泄するという消化器官の一連の流れにそって、どこに患者さんが困っているかを察知し、サポートする。
主要疾患:
消化器内科・外科疾患全般、がん性腫瘍、胆道系疾患 など