症状だけを見るのではなくその裏にある意味を理解する。
地域の精神医療の中核を担う阪南病院。子どもを支えるために家族を含めたチーム医療を提供し、癒し、育ち、学びを大切にしている。同院にある児童精神科専門病棟に勤務する堀上千里さんは、精神科認定看護師(日本精神科看護協会)としての資格を持つ、児童・思春期精神看護のエキスパートだ。精神科は成人であっても関わり方が難しい。それが子どもとなるとさらに複雑だ。特に思春期を迎える時期は、心が繊細になる。多くの子どもは家族や周囲の人との葛藤を抱えており、それが身体症状や精神症状・行動に現れる。中には暴言を吐いたり、暴力を振るったりする子どもがいる。
堀上さんは言う。「症状に振り回されずにその裏に隠された意味を理解することが大事」。原因は人によって異なり、子どもを取り巻く環境が一人ひとり違うため、同じ行動をしたとしても、治療方法は一つとは限らないのである。どうしてそうなってしまうのか、家族や友だち、学校、または生まれ持った特性、それらがどう関係しているのか。これらをもとに何が原因かを見つけ出し、それぞれに合った方法で改善していくことが、児童精神科の看護師の難しさである。
子どもの小さなサインを見逃さないために。
『家族を丸ごと支えること』が大事と堀上さん。「問題は本人だけでなく学校や家族の関わり方であったり、親が精神疾患を持っていたりする場合もあります。子どもを取り巻くあらゆるものの中から原因を見つけ、改善するには多職種で情報を共有し、専門性を持って協働することが必要です」と言う。
子どもによっては、自分の気持ちを言葉で上手く表現できないこともある。本人であってもなぜそうなってしまうのかが分からないのだ。そういった状況の中から原因を探り、改善方法を見つけていくには、多職種とのミーティングが重要になる。定期的なミーティングだけでなく、気がついたことがあればすぐにカンファレンスが始まる。さらに家族とのコミュニケーションは欠かせない。少しの時間でもこまめに話を聞くことを大切にしているという。
堀上さんは「社会のルールを学び、集団の中で成長を支援することを大事にしています」と続ける。ダンス、音楽、スポーツ、園芸など、児童精神科病棟の治療プログラムは多種多様だ。プログラムに参加することで、喜びや感動、悔しさといった感情を伴った経験ができるとともに、気持ちを分かち合うことができる。音楽の先生が演奏したギターに感動し、練習を積んでバンドを組むまでになった子どももいるという。何かのきっかけでどんどん変化するのが子どもだ。「話を聞いてくれてありがとう」と書かれた手紙はスタッフ全員の宝物、と堀上さん。高校の制服を着て会いに来てくれる時には大きなやりがいを感じると言う。子どもの小さなサインを見逃さないためには日々の些細な積み重ねによって築かれる信頼関係が大切である。医療者が子どもの成長を信じ続けることが未来につながると願い、今日も子どもたちと向き合う堀上さんだった。
気になることがあればすぐにでも行われるカンファレンス。それぞれの専門的立場から子どもたちを支える。子どもの気持ちに寄り添い、代弁し、調整するのが看護師の役割。
堀上 千里さん
2007年4月入職
D1病棟(児童精神科)勤務
1日のスケジュール
阪南病院
〒599-8263 大阪府堺市中区八田南之町277
担当/総務課 小田・河中
TEL(072)278-0381(代)
http://www.hannan.or.jp/
e-mail : kango@hannan.or.jp
短期滞在型のメンタルケア病棟、精神科救急入院病棟、スリープラボの設置、学会認定医による睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の専門治療など、さまざまな精神医療を展開している阪南病院。2011年には入院治療を行う児童精神科専門病棟を設置し、あらゆる年代の精神疾患に対応している。庭には花が咲き乱れ、病床はすべての窓から光が差し込む。このように環境にも配慮し、癒しの場を提供している。長年培った精神科病院としての実績と、多職種がそれぞれの専門性を発揮できる連携のとれたチーム医療が特徴である。
ここの看護に注目!
子どもが地域の生活に戻っていくためには、一人ひとりを取り巻く環境を把握し、その中から原因を見つけていくことが必要。そのためには個別性を重視した密なカンファレンスが大事だ。また、子どもと楽しみや遊びを共有し、心に寄り添うこと。本人や家族の話を聞き、信頼を得ることを忘れてはならない。
主要疾患:
広汎性発達障害、気分障害、多動性障害、重度ストレスへの反応および適応障害