無理なく小さなことから改善していくお手伝い。
「糖尿病というのは、それ自体は痛くもかゆくもなくて、放っておいてしまうんです。気づく頃には合併症で取り返しのつかない状態になっていることもあります」。宇部興産中央病院の糖尿病・血液内科で糖尿病の患者さんの指導に携わる藤井まみ子さんは、糖尿病の怖さについてこう語る。いかに初期のうちに生活改善をして悪化を防ぐか。それが糖尿病看護における大きな課題のひとつでもある。
2年前に糖尿病看護認定看護師を取得した藤井さんは、教育入院の患者さんに対する糖尿病についての教育や食事・運動・薬物療法などの指導を行っている。「生涯つき合っていかなければならない病気ですから、まず信頼関係を築いて、患者さんが少しでも多く自分の生活について語ることができる雰囲気づくりを大切にしています」と藤井さん。常に笑顔は絶やさないように心がけているという。
食事や運動などの習慣を変えるには、本人による目標設定が重要な要素となる。「全部を急に変えるのは難しいので、できることから少しずつ、患者さんのお話を聴きながら、ご自身に意思決定をしてもらうようにしています。車で移動しても遠くの駐車場に停めて歩くなど、小さなことからはじめるのがポイントです」。このように藤井さんは、指導というよりも意思決定のパートナーの姿勢で関わっている。
チームで関わることでできることが増えていく。
藤井さんは言う。「最初の頃は、一生懸命やっているのに何でうまくいかないんだろうって落ち込むこともありました」。そんな時は、糖尿病チームの仲間と語り合うことが、モチベーションアップにつながっているという。同院には、他職種で構成される糖尿病チームがある。医師、薬剤師、理学療法士、管理栄養士と一緒に病棟をラウンドしたり情報共有をしたりしながら、『何がその患者さんにとって最善か』ということを追求している。
患者さんが少しずつ心を開いてくれ、一緒に生活を振り返ることができると、さまざまな側面が見えてくるのだという。「新たな一面が見えたり、療養行動に変化が見られたとき、『やっていてよかった』と心から思えるやりがいのある分野だと思います」と、藤井さん。かつて担当した患者さんが、外来受診の後で、よくなった数値を手に病棟に会いに来てくれたり、スーパーでばったり会った時に「これ食べてるんですよ」とカゴの中身を見せてくれる。そんな一つひとつのエピソードが藤井さんをさらなるがんばりへと導いている。
今後は、院内だけでなく院外での活動も展開しようと考案中だという。「チームで、院外の患者さんや個人病院の看護師さんを対象とした勉強会を開催して、地域との連携を図っていきたいと思っています」と、目を輝かせて抱負を語ってくれた。
藤井 まみ子さん
2004年2月入職
糖尿病・血液内科病棟勤務
「もう少しあの時にきちんとしていれば」。糖尿病の合併症で失明し、透析を受けていらした患者さんのつぶやきが、私の看護師人生を変えました。もっと個々に合わせた指導ができたはずだと糖尿病の勉強をはじめ、糖尿病療養指導士、そして糖尿病看護の認定看護師の資格を取得するに至りました。患者さんに後悔をさせたくないという一心でがんばっています。
糖尿病チームや病棟スタッフは「とても仲がいい」という。笑顔で話せる雰囲気づくりにも藤井さんは一役買っている
1日のスケジュール
宇部興産中央病院
〒755-0151 山口県宇部市大字西岐波750
担当/看護部 末永
TEL(0836)51-9720(直)
http://www.ube-ind.co.jp/hospital/
e-mail : 23999u@ube-ind.co.jp
1953年に結核診療施設として開設された経緯があり、瀬戸内海に面した風光明媚な丘陵に建つ。山口県宇部市周辺地域の基幹病院、また地域密着の市民病院としての役割を担っている。高度な先進医療機器を整備した救急医療センター、脳卒中センター、腎透析センター、消化器内視鏡センターなどを設置。すべての診療科で専門医療を行う急性期病床と、亜急性期病床、回復期リハビリテーション病床を有し、社会復帰へ向けた機能訓練なども積極的に行う。
ここの看護に注目!
糖尿病の患者さんの入院は、インスリン導入などでの教育入院が多く、糖尿病に関する教育や、食事・運動・薬物療法に対する指導が行われる。患者さん本人の行動変容を促すためには、専門知識だけでなく話を引き出し寄り添いながら目標設定をしていく姿勢が大切。また、合併症の知識や他職種との連携も糖尿病看護の鍵となる。
主要疾患:
糖尿病教育入院、シックデイ、高血糖、低血糖 など