Pick Up Hospital
NST・緩和ケアチーム・褥瘡委員会・訪問看護etc…さまざまなナースによるさまざまな看護のカタチを徹底レポート!
※掲載されているデータは取材当時のものです
Pick Up Hospital 25 [ 2015.6 ]
安心のプログラムで、
ゆとりある新人教育を目指す。
数年前までは、『まずやってみよう! 習うより慣れよう!』という考えのもと、詰め込み型の看護教育を実施していた行田総合病院。その頃の院内では、新人は何もできないと自信をなくし、指導者もつい怒ってしまい自己嫌悪と、お互いが悩んでしまうことが多くあったという。それならば、看護業務を始める時期を遅くすればいいのではないかと始まったのが、今回ご紹介する『ゆとりある新人教育』。例えば、注射や点滴の開始まで3ヵ月の準備期間があったり、夜勤は早くても半年以降のスタートだったり。時間に余裕があるので、リスクの高い仕事も一つずつじっくりと学ぶことができる体制となっている。その背景には、新人看護師たちに『看護を楽しんで欲しい』という同院の熱い思いがある。それが最終的には患者さんの安全や安心につながることが分かっているからこそ、急がば回れの精神で、ゆっくり新人看護師を育てているのだろう。
今回は、看護部主任で教育委員の内海真紀さんと2015年4月から整形外科病棟に勤務する新人看護師4名の方にゆとりある看護教育について伺った。
行田総合病院
▲病院外観
〒361-0056 埼玉県行田市持田376
TEL:(048)552-1226
URL:
http://gyoda-hp.or.jp/
■開設/1988年12月
■開設者/川嶋 賢司
■看護部長/坂本 徳笑
■病床数/504床
■職員数/810名
■診療科目/内科、循環器内科、消化器内科、消化器外科、呼吸器内科、神経内科、リウマチ科、外科、肛門外科、整形外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、小児科、心療内科、緩和ケア内科、放射線科、リハビリテーション科、麻酔科
■看護配置/実質配置7:1
■指定機関/地域医療支援病院、災害拠点病院、埼玉DMAT指定病院、がん診療指定病院、基幹型臨床研修指定病院、日本医療機能評価機構認定病院
■関連施設/介護老人保健施設、訪問看護ステーション、訪問介護ステーション、在宅介護支援センター
■併設/附属クリニック、救急センター、人工透析センター、ドクターヘリ専用ヘリポート
■交通案内/JR高崎線行田駅より徒歩20分(行田駅:熊谷より5分、大宮より35分、東京より60分)
新人の業務開始は、注射や点滴は7月から、夜勤開始も10月から。
全国から新人が集まる『ゆとりある看護教育』の実際に迫る!
- 看護部主任・
教育委員
内海 真紀
- 看護師
2015年4月入職
熊谷 歩美
- 看護師
2015年4月入職
植松 大貴
- 看護師
2015年4月入職
新井 杏世子
- 看護師
2015年4月入職
千葉 由貴
行田総合病院の『ゆとりある新人教育』によって、全国からたくさんの看護学生が集まっているとお聞きしました。その特徴を教えてください。(Median編集部)
- 内海
看護部主任・教育委員
内海真紀さん
当院では、実習と臨床現場の差を少しずつ埋めていけるように、ゆとりある新人教育プログラムを組んでいます。それは、数年前まで実施していた詰め込み型の新人教育に限界を感じていたからです。それならばまず3ヵ月間、ケアを中心に基礎を学び、それから注射や点滴をスタートする、ゆっくりじっくり型に変えようということになりました。そして業務に慣れてくる半年後を目途に夜勤が開始できることを目標にしています。指導者の先輩にゆとりがあることで新人たちに深く関わることができ、人間関係の良さも生み出しています。気持ちにゆとりを持ちながら、個人に合わせて着実に成長できる安心のプログラムです。
このような教育を通して、どのような看護師に
育って欲しいと思われていますか?
- 内海
食事介助
新人看護師は誰でも、最初のころは緊張していると思います。その緊張をプリセプターと一緒にほぐしながら、看護の技術だけでなく、精神面の成長もしていって欲しいですね。行く行くは一人の看護師として患者さんを担当していくわけですから、言葉遣いや礼儀作法をきちんと身に付けたうえで、病気と闘っている患者さんの気持ちを受け止めて、看護ケアへつなげていけるような看護師となれるように支援していきたいと考えています。そのためには、患者さんが入院するまでの経緯を踏まえて、入院前の思いやこれからの願いを受け止めながら親身になってコミュニケーションが取れることが大切です。つまり疾患だけを看るのではなくて、その患者さんという一人の人間を看て、プロの看護を提供できる姿勢が看護師には必要になります。
指導するにあたって、教育側の立場として
気をつけていらっしゃることはありますか?
- 内海
病棟での指導風景
相談しやすい環境を作ることですね。やっぱり新人から先輩には相談しづらいじゃないですか。なので、遠くから顔つきとか行動とか、プリセプターと話している時の表情とかを見て、「おや?」と思ったら声をかけるようにしています。
また、毎月1回教育委員会を開いて、今年の新人の傾向を話し合ったりしています。プリセプター委員会というのもあって、教育委員会と合同で話し合いをして、情報の共有をすることもあります。さらに、毎年プリセプターになる看護師たちを集めて研修会を行い、指導者としての姿勢も統一しています。
2015年4月から、整形外科病棟へ配属となった新人看護師の熊谷歩美さん、植松大貴さん、新井杏世子さん、千葉由貴さんに、新人教育を受けた感想等をお伺いしました。
入職後の集合研修と、実際に受けてみた感想をお聞かせください。
- 植松
看護師 2015年4月入職
植松 大貴さん
入職して最初の1週間位は看護部だけでなく全部署、全職種の新人が集まって、社会人としてのマナー講義や心構えなどの基本を押さえた研修を受けました。今年は同期が80名位いるのですが、講義形式だけでなくグループワークなども行って、他の職種の人とも交わりながら楽しく学べました。
- 熊谷
看護師 2015年4月入職
熊谷 歩美さん
医療安全の知識や感染対策など、医療者として備えておくべき必要不可欠な知識を、看護技術よりも先に教えていただけたことは良かったです。大まかな知識からそれを院内ではどのように活用しているかまで幅広く知ることによって、「私もここの一員になるんだな」と、気持ちも新たになりました。
実際の配属前に全部署ローテーションがあるのですね? いかがでしたか?
- 新井
看護師 2015年4月入職
新井 杏世子さん
希望配属先を決めるのにも全部署ローテーションがあって良かったと思います。自分のやりたいことと、現場でやっていることというのをつなぐ意味でも、1日でも半日でも、実際に患者さんと関われたり、先輩がやっていることが分かるっていうのは大きかった気がします。
- 植松
- 1グループ4〜5人くらいで、1つの部署に半日から1日、全部署を2週間かけて回りました。その病棟の業務の流れや特徴的な検査や処置を一緒に見学したり、一部介助させてもらいました。毎日、その日に回った病棟の特徴とか、自分がどう感じたかというレポートを提出して、全部署回ったら、最終日にグループで特徴をまとめた発表会を行って、皆の気づきや学びを共有します。
全部署ローテーションを終えて、志望したのが皆さん整形外科だったわけですね。その志望動機を教えてください。
- 千葉
看護師 2015年4月入職
千葉 由貴さん
学生の頃実習で整形外科に行って、自分の関わりを通して患者さんが回復していく姿を見ることができたので、整形外科に興味を持ちました。入職後の全部署ローテーション研修で整形外科の病棟に実際に行ってみると、回復している患者さんに笑顔が多くて、看護の手応えを感じることができる病棟だと思ったので希望しました。
- 熊谷
- 私は、今は難しいとは思うのですけれど、最終的には小児科看護をしたいと思っています。こちらでは整形外科と小児科が一緒の病棟になっているので、整形外科で小児科も経験できるということと、実際に全部署ローテーション研修で回った時にスタッフさん同士の関係が良くて、病棟内の活発な雰囲気が感じ取れて、「ここに行きたいな」と思いました。
新人教育に看護手順書というマニュアルを使用されていますが、使い心地はいかがでしょうか?
- 熊谷
看護手順書
このファイルの中に約104の看護技術が項目ごとにまとめられていて、それをいつまでにどの程度までできるようになりましょうという目標があって、まずは日々の業務の中で指導者さんと一緒にできるようになり、最終的に自立してできるようになったら合格がもらえます。6月と10月と2月にその評価月があるんですけど、それまでにできるようになることが新人たちも一つの目標となっています。
- 新井
-
先輩たちが築き上げた看護業務内容や看護手順がぎっしり詰まっていて、愛情を感じます。手作りで細かく看護手順やその根拠が書いてあって、新人でもとてもわかりやすくなっています。チェックシートを使いながら、合格になるまで何度も繰り返して見直すことができるので、これは私たちの教科書代わりです。
病棟ではOJTを通して指導を受けると思うのですが、プリセプターの先輩たちの指導は、いかがですか?
- 植松
-
教育方法は手厚くて、整っていると思います。自分がケアをしていて、うまくできなかったり、分からないことがあると、まわりのプリセプターさんや他の先輩たちに何でも気軽に聞けるので助かっています。先輩たちは、「なぜそう思ったの? ここは看てみた?」とヒントを出してくださり、自分で調べるきっかけを与えてくれて、すごく勉強になります。
- 新井
- 私の先輩からは、「目的は?」とよく聞かれます。清拭にしても観察して、ただ身体拭くだけじゃなくて、「どういうところを観察したいの?」「それならこの点も足りないんじゃない?」「その理由はどう思う?」など、一つのことを一緒に掘り下げて考えさせてくれるので、納得しながら先へ進むことができます。
- 熊谷
-
自分のケアに自信がないときは、「一度見てもらったんですが自信がないのでもう少し経験したいです」と申し出れば、プリセプターさんは協力してもう一回指導してくれますし、他の指導者の方に見てもらうこともあります。そうやって皆さんでフォローしてくださっているんだと思うと、「私も頑張ろう!」とやる気が出ます。
同じ病棟で働く4人の看護師さんたちは、とても活き活きと自分たちが受けてきた研修のことや配属後の仕事のことなどを語ってくれた。ゆっくりと育ててもらっていることを千葉さんは、「他の病院で働いている友人の話を聞くと、“私はまだそこまで行ってないな”と思うんですが、自分ではゆっくり少しずつ教えてもらった方が理解もしやすいし、自分が自信を持ってできるので良いと思います」と言う。急がずに新人看護師一人ひとりの成長段階に合わせたペースで進められる教育が、きっと新人を大きく育てていると感じた。焦らず、急がず、個人を大切に育てるゆとりある新人教育だからこそ、多くの看護学生たちが興味を持って集まって来ているのだろう。看護師としてスタートを切ったらその道のりは長く続くのだから、スロースタートを切ったとしてもいつか先を行く看護師たちに追いつき、追い越す時が来るはずだ。自分の納得のいくスタートを切ることが、長く続ける秘訣かも知れない。今後の彼・彼女たちの成長が楽しみな行田総合病院だった。