Pick Up Hospital
NST・緩和ケアチーム・褥瘡委員会・訪問看護etc…さまざまなナースによるさまざまな看護のカタチを徹底レポート!
※掲載されているデータは取材当時のものです
Pick Up Hospital 27 [ 2016.2 ]
患者さんや医療機関からの相談をワンストップで受け、
多職種の連携で支援していく総合相談・支援センター。
東京都庁も近い都会の真ん中で、高度先進医療、急性期医療を提供している東京医科大学病院。多くの患者さんからの幅広いニーズに応え、患者さんが地域で安心して療養生活が送れるように、同病院では2011年8月から、医療福祉相談室、在宅医療支援室、 患者相談窓口の3つを統合し、さらに地域との医療連携を担う医療連携室もあわせ『総合相談・支援センター』としている。患者さんやご家族からの、さまざまな相談や心配ごとなどを受け止め、必要とされる支援を多職種が連携して提供していく体制だ。また、高度先進医療や急性期医療を受けた患者さんが、在宅医療までシームレスに療養を受けられるようにするために、医療連携は欠かせない。そのため、患者さんからのニーズも多い、退院支援と医療連携をさらに強化していく方向である。統合された窓口で、実際どんな相談支援が展開されているのかを伺った。
東京医科大学病院
▲新病院建設中
〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1
TEL:03-5339-3733(直)
URL:
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/
■開設/1932年11月
■院長/土田 明彦
■看護部長/中野 八重美
■病床数/1015床
■診療科目/総合診療科、血液内科、呼吸器内科、循環器内科、糖尿病・代謝・内分泌内科、神経内科、リウマチ・膠原病内科、腎臓内科、消化器内科、高齢診療科、臨床検査医学科、メンタルヘルス科、小児科、呼吸器・甲状腺外科、心臓血管外科、消化器外科・小児外科、乳腺科、産科・婦人科、脳神経外科、整形外科、形成外科、皮膚科、歯科口腔外科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、麻酔科、放射線科、臨床腫瘍科
■看護配置/7:1 モジュール型継続受け持ち制
■交通案内/
・JR、小田急、京王線「新宿駅」下車、西口徒歩10分
・地下鉄丸の内線「西新宿駅」下車、徒歩1分
▲センター内
▲総合相談・支援センター外観
総合相談・支援センターってどんなところ?
看護師の役割とやりがいに迫る!
- 総合相談・支援センター 副センター長
看護師長
告原 博美さん
- NICU退院調整看護師
杉山 ゆう子さん
総合相談・支援センターが開設された背景や経緯についてお聞かせください。
(Median編集部)
- 告原
副センター長 看護師長
告原 博美さん
2011年8月に総合相談・支援センターができるまで、当院の患者さん向けの相談窓口は、医療福祉相談室、在宅医療支援室、患者相談窓口の3つに分かれていました。それに加え、在宅療養をされる患者さんを支える地域の医療機関さんとの連携窓口というものもあり、それぞれが、お互いにつながりながらも窓口としては別々という状態でした。
在宅医療の推進や医療技術や機器の進歩で在宅療養される方も増え、今後ますます患者さんの生活の場を視野に入れたシームレスな支援が必要となると予測されます。そのような背景もあり、患者さんや地域の医療機関の皆様からの幅広いニーズにお応えしていこうと、窓口が統合されたのです。
- 杉山
NICU退院調整看護師
杉山 ゆう子さん
それまでは複数の窓口があり、患者さんにとってはどこに相談すればよいか分かりづらい面もあったかと思いますが、一つになったことで、気軽に、安心して相談にお越しいただけるようになったと思います。 そこで働くスタッフにとっても、連携がしやすいというメリットがあります。
『総合相談・支援』というと、とても幅広いニーズがあると思いますが、センターでは実際にどのような業務をされているのでしょうか。
- 告原
相談風景
大きく分けて、相談支援業務と連携の業務があります。相談は、患者さんからの医療福祉相談、受診相談、セカンドオピニオンの相談のほか、在宅医療や在宅緩和ケア、療養生活全般についての不安や疑問に対する相談などにも応じています。
連携としては、患者さんの入退院の際に地域で在宅医療を提供するクリニックや、訪問看護ステーションほか、地域の医療・社会資源と情報のやりとり、調整などを行っています。特に当院は、高度先進医療を提供する大学病院ということもあり、その機能や役割を十分に果たすことができるように連携はとても大切です。
当センターには、医師、看護師、ソーシャルワーカー、専門相談員がおりますので、相談支援や連携の業務を協力しあって行っています。
その中で、杉山さんのなさっている、小児の退院調整看護師さんの役割・仕事内容を教えてください。
- 杉山
退院に向けてさまざまな調整を行う
当センター内には退院調整看護師が4名配置されており、患者さんの円滑な在宅療養への移行を図るために、さまざまな調整を行っています。
その中で、私は小児の退院支援を担当しています。NICUに長期入院されるお子さんが増えていることから、東京都ではNICU 等から在宅生活への円滑な移行に力を入れており、NICU経験5年以上の看護師を、NICU入院児支援コーディネーターとして配置することを進めてきました。その役割も、私が担当させていただいているということになります。
当院の産科では、切迫早産の週数の浅い妊婦さんも受け入れており、NICUからの退院時に人工呼吸器などの医療ケアが必要なお子さんもいらっしゃいます。医療依存度の高い方には、地域の資源を導入できるように調整していきます。また、退院に際してご家族にご説明をしたり相談にのったり、時間をかけてしっかり家族の受け入れをサポートして、お子さんがスムーズに退院できるように、NICUの看護師やソーシャルワーカーとも協力しながら支援をしています。
地域の資源も大切ですが、ご家族がお家に連れて帰りたいと思えたら、重症なお子さんも、工夫次第で今はほとんどご自宅で療養することができますから、まずはそこをしっかりサポートすることが大切です。
NICUから自宅への退院については、産科からNICU、そして在宅チームへの連携が大切ですが、どのように行われていますか?
- 杉山
病棟看護師も一緒のカンファレンス
まず、産科外来に通われている妊婦さんと面談をしています。そしてNICUへの入院時には、NICUの看護師が周産期支援スクリーニングシートを用いて、支援の必要度をスクリーニングしてくれます。それによって社会背景が複雑な方や医療ケアが必要な方が把握できますので、それに沿って周産期支援カンファレンスを開いたり、退院へ向けた介入が早期からできるようになっています。私もNICUラウンドに参加をさせていただいて、早い段階からご家族とお話をするようにしています。入院後の早い段階から関係性をつくって在宅医療が必要となってきた時にスムーズに導入できるように心がけています。
高齢者と違って制度上のケアマネジャーがいないので、どういう資源が必要か、ご家族が判断していかなければなりませから、そこを周りが状況に応じて支援することが必要です。退院時には、まずは地域の保健師さんが入ってくださって、必要であれば障害福祉課の職員や行政の窓口の方が介入しますので、その方々との連携が必要となります。また、退院時に導入が決まっていれば、訪問診療、訪問看護、訪問薬剤師、訪問リハビリ、場合によってはヘルパーさんといった、今後支援をされる方々と一緒に、ご家族も参加いただいてカンファレンスを開催しています。退院後も、外来でフォローするなど継続的な支援を行っています。
多方面とのやりとり、調整など大変なお仕事ですが、そのような中で得られるやりがいや喜びとは、どのようなものでしょうか。
- 杉山
NICU
小児の場合には特に、ご家族が気持ちのうえでお子さんの退院を受け入れることができない限り、退院自体がとても難しくなってしまいます。そういう場合は、ご家族にも複雑なご事情があることが多く、多方面への働きかけが必要となります。たとえば、お母さんはお子さんとご自宅で一緒に生活することを希望されていても、お母さんのご両親が、娘さんの人生が子どものケアだけになってしまうことをご心配されてなかなか話が進まないということもありました。その際には、臨床心理士も含めて、何度もご家族と面談をして、結局、施設ではなくご自宅へ退院することができました。「久しぶりに抱っこできた」とお母さんが喜ぶ声をお聞きして、家に帰られて本当に家族になれたんだなと、私も嬉しくなりました。
NICUに入院されたお子さんは、一度もご自宅へ帰ったことがないので、退院からがご家族のスタートという意味ではとても感慨深いものがあります。
- 告原
- センター全体としては、縁の下の力持ちのように、いろいろな相談を受け止め調整をしなければならず大変な面もあります。しかし、病院の中にいてはなかなか見えない地域の事情や社会資源について知ることができますし、いろいろな方と協力しあって課題を乗り越えていく醍醐味のようなものもあります。ここを経験すると、視野も広がり看護師としてのキャリアアップにはとても役立つのではないかと思っています。
今後さらに、総合相談・支援センターの重要性が増してくると思われます。抱負をお聞かせください。
- 杉山
地域の訪問看護師さんに、支援センターとしてどのように地域とつながっていくべきか、連携のしやすさや課題についてのアンケート調査にご協力いただきました。さまざまなご指摘や貴重なご意見をいただきましたので、院内にフィードバックしていきたいと思っています。それを踏まえてもっと連携を密にして、みなさんからの期待に応えていきたいです。
私たち退院調整看護師の活動という面では、病棟でも入院後の早い段階から退院後の生活をイメージして関わっていってもらえるように、業務の中でも伝えながら、病棟の退院支援力アップのお手伝いができればと思います。
- 告原
-
当院は特定機能病院ですので、高度急性期医療が担えるよう、重症度に応じた病病連携や『ふたり主治医制』などの病診連携が今後いっそう重要となってくるでしょう。そのような中で、総合相談・支援センターの機能強化も求められています。また、高齢者のみの世帯や、独居の高齢者も増えています。そのような方々が当院を利用される時にも、住み慣れた地域で安心して療養生活が送れるよう、地域医療機関のみなさまとの連携をさらに深めていければと考えています。
病気になったりケガをしたり、日常と違う状況になった時は、普段は思いも寄らない心配ごとや疑問が出てくるもの。しかも、それをどこに相談すればよいのか分からない状況にもなり得る。そんな時に、分かりやすい総合相談の窓口があるのは、患者さんにとってどんなにか心強いだろう。その窓口の奥に、日々数寄せられる患者さんや医療関係者からの相談に、寸暇を惜しんで応えるスタッフがいることはあまり表から見えないかもしれない。しかしここには、病棟では得られない地域の多くの人たちとの協働の経験と学びがある。せっかく病気やケガが良くなり退院できても、その後、その人たちが望む形での療養生活が送れなかったら何にもならないという、生活に根ざした医療の大切さを、身をもって知ることもできるだろう。
都市部、特に首都圏の高齢化率の急激な上昇に伴い、こういった総合的な相談窓口の必要度はさらに増し、病院にいながら『暮らしの中の医療』という視点で見られる看護師の活躍への注目度も高まっていくだろう。