Pick Up Hospital

NST・緩和ケアチーム・褥瘡委員会・訪問看護etc…さまざまなナースによるさまざまな看護のカタチを徹底レポート!
※掲載されているデータは取材当時のものです
Pick Up Hospital 6 [ 2009.12 ]
患者さんとスタッフ、それぞれを支援する手術室の取り組み。
“手術室”は、患者さんが手術という侵襲的な治療を受ける緊迫感の高い場です。手術室だからこそ味わえるやりがいや喜びは、どのようなところにあるのでしょうか。今回は、実際に手術室に勤務しているナースの視点から、順天堂大学医学部附属練馬病院の手術室の取り組みを紹介します。
学校法人 順天堂 順天堂大学医学部附属練馬病院
〒177-8521 東京都練馬区高野台3-1-10
TEL:03-5923-3111(代)
■開 設 年/平成17年7月1日
■院 長/宮野 武
■看護部長/岡田 綾
■病 床 数/400床(ICU、CCUを含む)
■職 員 数/650名
■診療科目/総合診療・性差科、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、腎・高血圧内科、膠原病・リウマチ科、血液内科、糖尿病・内分泌内科、脳神経内科、メンタルクリニック、総合小児科(小児科、小児外科)、総合外科(消化器外科、乳腺外科、呼吸器外科)、脳神経外科、整形外科・スポーツ診療科、形成外科、皮膚・アレルギー科ほか
■看護配置/実質配置7:1
■関連施設/順天堂大学医学部附属順天堂医院、順天堂大学医学部附属静岡病院、順天堂大学医学部附属浦安病院、順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター
■各種認定/病院機能評価 評価体系Ver.5.0
■交通案内/西武池袋線『練馬高野台』駅下車、徒歩約3分
手術室勤務のナースに聞く!

- 城 信嗣さん
手術室勤務というと、業務体制など、病棟勤務とは違う部分が多いと思います。実際にどのような流れで業務が行われているのですか?(Median編集部)
- 城

手術室勤務の城 信嗣さん
室内には、手術を担当する医師と麻酔科の医師がいます。そこに2人のナースがつきます。1人は器械出し担当で、もう1人は外回り担当です。器械出しというのは、医師の横についてその手術に必要な器械を手渡すことで、外回りというのは、患者さんの入室から退室まで気を配り、事故なく安全に手術を終えられるよう全体を見渡す役割のことです。外回りの業務は幅が広いですね。手術は出血や尿の量に注意するだけではありません。手術中の患者さんの体位はさまざまであり、また手術時間も異なるため、患者さんに負担をかけないような体位にし、褥瘡が発生しないように細かい部分を見る必要もあります。
器械出しか外回りか、どちらかを専任するということはありません。手術に応じてどちらも担当できるように、常に教育が行われています。
手術室のナースには幅広い知識や技術が必要とされますね。手術室勤務が初めてのナースには、どのような教育をされているのでしょうか?教育のほか、「当院の手術室ならでは」という取り組みも教えてください。
- 城

覚醒室で患者さんの状況を確認
まず教育ですが、実際に手術の見学をしてもらい、手術がどのようなものかを知ってもらうことから始まります。その後、多種多様な器械を使いやすいように並べる器械展開、器械出し、清潔・不潔の基本など、実践に沿ったオリエンテーションを行い、少しずつ業務に慣れていくようにします。実際の手術では、新人が独り立ちするまで先輩ナースがマンツーマンで指導に入ります。1年を通して前期は器械出し中心に、後期は外回り中心の指導になります。また、器械出し、外回りそれぞれにチェックリストを使用して、独り立ちのための評価につなげています。
教育以外の取り組みとしては、介助をきちんとイメージすることで不安を軽減し、スムーズに介助が行えるよう、新しい手術や複雑な手術に対して、写真やイラストを使用したプロトコールを作成しています。種類や内容が充実しているので、規定や手順を確認する時にとても役立ちます。それと、開院当初から医師と協力して業務改善ができる体制が整っているので、業務が進めやすいということもあります。例えば、手術用ドレープを改良する時なども、ナースの意見をきちんと取り入れてもらえるんです。患者さんに対しては、室内で少しでも気持ちが和らぐように、予めお聞きしておいた好みの曲をBGMとして流しています。子どもの場合は、室内の壁にキャラクターの掲示物などを貼っています。また、子どもは手術後の不安が大きいので、ご家族に早めに覚醒室に入室してもらい、なるべく早く面会できるようにしています。
患者さんのため、スタッフのため、手術室ではいろいろな取り組みがなされているのですね。では、他部署と取り組んでいることはありますか?
- 城

ICUナースへの引き継ぎで、
患者さんの状態を詳しく報告
これは当院全体のことなのですが、患者さんへの接遇を重要視しています。手術室でも、毎朝のカンファレンスで『接遇マニュアル』を読み、その日の目標を決め、一人ひとりの意識を向上させています。患者さんからのご指摘には各部署で目を通し、考察、改善に取り組んでいます。
他部署との連携としては、手術中に発生した褥瘡は病棟へ引き継ぐのですが、NST委員会にも毎回報告し、連携して患者さんの栄養状態を管理しています。患者さんの栄養状態が悪いと、組織の再生も悪くなってしまうので、患者さんそれぞれに合った食事を考えてもらい、早期回復に努めています。
あと、リスクマネジメント委員会との関わりもあります。手術室で起きたヒヤリハットの内容をリスクマネジメント委員会に報告しています。院内全体で患者さんのために安心・安全な医療が提供できるシステムとなっています。どんな出来事も危険と関連づけ、油断しないようにしています。
患者さんのための取り組みは多くても、実際には手術室内で患者さんとコミュニケーションをとるのは難しいですよね。そこが患者さんと頻繁に関わる病棟ナースとの大きな違いだと思うのですが。
- 城
- そうですね。手術室内で患者さんと会話する時間は、5分あるかないかぐらいです。基本的には、手術室に入室された患者さんに簡単に自己紹介をし、患者さんの名前や手術部位などの確認となります。だから、患者さんに顔や名前を覚えてもらえるなんて、ほとんどないんです。それはちょっと寂しいなーと思いますね(笑)。逆に術前・術後訪問のため患者さんの病室へうかがう時には、患者さんとの会話が中心となります。
術前・術後訪問は、どのような流れで行われるのですか?
- 城

手術室で次の手術の準備をするのも、
テキパキと手際よく
術前訪問では、手術前日に病棟の患者さんの病室にお邪魔し、翌日の手術についての説明をします。専門用語や略語を使うと患者さんにはわかりづらく、何より不安をあおってしまうことにつながるので、わかりやすい言葉で丁寧に説明することを心がけています。それと、手術中、暑い、寒い、痛い、音がうるさいなど、気になることがあれば我慢しないでお話いただけるよう説明し、室内の環境にも気を配るということを伝えます。「どんなことでもお話くださいね」と伝えると、患者さんは安心した表情なりますね。どんなことでも遠慮をせずに言ってほしい、聞いてほしいという姿勢で患者さんと向き合います。
術後訪問は患者さんが落ち着かれた頃にします。「手術中は寒くなかったですか?」「手術が終わってホッとされましたね」「まだ痛みますね?」といたわりの言葉をかけ、手術中の体位による筋肉痛、発赤、テープのかゆみなどがないかを確認します。術後訪問をしても、先ほども話したように手術中の患者さんが僕のことを覚えてくれていることは少ないのですが……(笑)。それでも、自分が訪問したことで楽な気持ちになってほしいと思います。
そのように接してもらえる患者さんは幸せですね。手術室というと、どうしても緊張感あふれる場という気がします。その分やりがいも大きいと思いますが、どんなところにやりがいを感じますか?
- 城

カンファレンスではナースも
積極的に発言
日々勉強で、解剖生理や術式などたくさんのことを吸収しなくてはいけません。器械出しで勉強したそれらの知識や技術が活かされてスムーズに手術が進行した時は、とても達成感を感じます。また、患者さんのなかには僕のことをちゃんと覚えていてくれる方もいらっしゃいます。その方が言ってくださる「ありがとう」や「お礼の手紙」は本当にうれしくて励みになり、「やってて良かったな、もっと頑張ろう」というやりがいへとつながります。
以前、ヘルニアの手術をする5歳の男の子を術前訪問した時、手術を翌日に控えたその子は、並大抵ではない緊張をしていました。だから不安をあおらないように、気を紛らわせるための雑談をたくさんしたんです。手術が終わってしばらくしてから、僕のメールボックスにその子からの手紙が入っていました。読んでみると「会いに来てくれてうれしかった」と書かれており、涙が出るほどうれしかったことを覚えています。「自分の言動がこんなに患者さんの心に響いていたんだ」と、改めて術前訪問の力を認識しました。
覚えていてくれる患者さんが少ないからこそ、そういう手紙は心に染みますよね。では最後に、今後の目標を教えてください。
- 城

“メンズクラブ練馬22”への参加は、
男性ナースだけの特権!
知識や技術を習得してより適確な業務を行うことはもちろん、手術は患者さんにとって心身ともに負担が大きなものなので、その負担を理解し、少しでも楽な気持ちになってもらえるような看護をしたいです。それと、他部署の看護師が手術室に関心をもち、「ここで働きたい」と思えるような職場にしたいですね。手術室勤務はとてもやりがいのある仕事なので、男性を含め、さらに仲間が増えればいいなと思います。
現在、当院には22名の男性ナースが働いており、そのメンバーで“メンズクラブ練馬22”を結成しています。2ヵ月に1回、男性ナースだけでざっくばらんに話せる懇親会を開くのですが、仕事のことからプライベートのことまで遠慮せず気軽に話せて、本当に楽しいですね。男性ナースがもっと増えて、今以上に活気のある病院になれば嬉しいです。

手術を受ける患者さんのストレスは多大なものだ。城さんの言葉からは、そんな患者さんの心身の苦痛を少しでも減らそうと、スタッフがすべてのケアを患者さん第一で行っていることが、ひしひしと伝わってきた。少し話しただけの患者さんから手紙をもらえたというのは、城さんの強い思いやりが患者さんに伝わった結果だ。戸惑うことなくいきいきと働ける業務体制も、スタッフ一人ひとりのスキルアップにつながり、患者さんに還元されているのだろう。