Pick Up Hospital
NST・緩和ケアチーム・褥瘡委員会・訪問看護etc…さまざまなナースによるさまざまな看護のカタチを徹底レポート!
※掲載されているデータは取材当時のものです
Pick Up Hospital 26 [ 2015.12 ]
地域包括ケア病床で、本人の望むところへ帰すために
日々奮闘する『退院調整看護師』の役割とやりがいとは?
平成26年の診療報酬改定で新設された『地域包括ケア入院医療管理料』。その対象となる『地域包括ケア病棟(病床)』とは、急性期治療を経過した患者さんや在宅療養を行っている患者さんの受け入れ、在宅復帰支援を行う病棟または病室である。今回紹介する中央林間病院では、一般急性期病棟の中に『地域包括ケア病床22床』を有し、退院に向けて、医師・看護師はじめ、理学療法士、看護助手などのコ・メディカルスタッフたちと協働しながら患者さんの在宅復帰を支援している。その中心となるのが『退院調整看護師』であり、今後ますますその活動に期待が寄せられている。中央林間病院で退院調整看護を担当している竹野聡恵さんと、地域包括ケア病床師長の星野明美さんに、仕事の役割ややりがいなどについて率直に語っていただいた。
中央林間病院
▲病院外観
〒242-0007 神奈川県大和市中央林間4-14-18
TEL:046-275-0110(代)
URL:
http://www.hospital-crg.net/
■開設/1980年9月
■院長/木山 智
■看護部長/茂木 一美
■病床数/116床
■診療科目/一般内科、消化器内科、一般外科、消化器外科、循環器内科、整形外科、糖尿病・代謝内科、脳神経外科、泌尿器科、腎臓内科、呼吸器内科、神経内科、皮膚科、乳腺外来、人工透析内科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科(ペインクリニック)
■看護配置/10:1
■併設/中央林間じんクリニック
■交通案内/東急田園都市線・小田急江ノ島線『中央林間駅』下車徒歩2分
地域に密着した医療機関で、在宅支援の役割を担う
『退院調整看護師』に密着レポート!
- 看護部長
茂木 一美さん
- 退院調整看護師
竹野 聡恵さん
- 地域包括ケア病床
師長
星野 明美さん
2014年の診療報酬改定で新設された『地域包括ケア入院医療管理料』ですが、
貴院で導入された経緯を教えてください。(Median編集部)
- 茂木
看護部長 茂木 一美さん
今の日本は高齢化が進み、どんな地域にも急性期、回復期、慢性期の医療を支える病院があると思うのですが、当院のある神奈川県大和市には療養ベッドのある施設が少ないことが以前から課題となっていました。ますます在院日数も短くなり、急性期の治療を終えた患者さんがスムーズに在宅へ移行するためには、地域の方に一番身近な医療機関を目指している当院が、「それならば我々でやりましょう」ということになり、導入に至りました。
『地域包括ケア病床』の患者さんの特徴と、看護のやりがいを教えてください。
- 星野
地域包括ケア病床師長
星野 明美さん
今年6〜9月でいうと、入院患者さんの総数が203名で、男女比は6:4くらいです。年齢構成は70歳代が43名、80歳代が80名、90歳代が46名、100歳以上が2名いらっしゃいます。疾患としては1位が大腿骨骨折、2位が急性肺炎または誤嚥下性肺炎、3位が腰椎圧迫骨折などです。当院は3階と4階に分かれて『地域包括ケア病床』があるので、患者さんの病状によって使い分けています。
- 竹野
-
患者さんは急性期治療を終えているので、病状は安定されている方がほとんどですが、最近は後期高齢者がすごく多くなっています。なので安定しているとはいえ、いつ急変するかわからない傾向があると思います。看護のやりがいとしては、患者さんとご家族が望む形での退院がかなったとき、それに尽きるかな。それに、「竹野さんいますか?」と探しに来てくださるご家族がいるということは、それだけ頼りにされていることなので、やりがいにつながります。
では、退院調整・支援に必要なこと、看護スキルにはどのようなものが
ありますか?
- 茂木
-
退院調整・支援には、患者さんの退院後の生活まで視野に入れて、疾患だけではなく全体的に捉えられる力が必要になります。患者さんは退院したいけれど、受け入れるご家族のことを考えて、問題があれば社会福祉などに目を向けて、その患者さんの望む形になるようにしていく力というのでしょうか? あと、たくさんの職種の方と関わりながらそれぞれの意見を調整していく力、リーダーシップ、マネジメント力も必要になると思います。もうひとつ、患者さんの思いを引き出す力も重要です。患者さんによっては、入院中は医師や看護師に本音が言えない方もいらっしゃるので、その本音を引き出す力、寄り添う力も必要ですね。
- 竹野
退院調整看護師 竹野 聡恵さん
そうですね、後期高齢者が多いので、介護保険や社会福祉の知識は持っていて損はないと思います。だからと言ってそれらの知識があればいいというものではなく、一番大切なのは、患者さんとご家族の話が聞けて、現状を見て、今後の生活をイメージできる力かなと思います。単にオムツ交換、車椅子移動をするだけでなく、この方は退院後にどのような生活になって、だから入院中にここまでできるようにしよう! と思い描きながら日々動いています。
竹野さんは、みなさんから頼りにされる退院調整のできる看護師さんだと
思うのですが、仕事の難しさは、どのような点でしょうか?
- 竹野
相談しやすい病棟内
私の場合、当初は院内に1人だったので、 わずかな時間の中で、いかに集中して考えられるかが大変な点でした。いろいろな部署に顔を出すと「あっ、竹野さん」と声をかけられて、相談されて、それを判断するために情報を集めて、考えて答えを出す。退院後の方向性を示しながら、だからこうしよう! というところまで持っていくには、頭はフル回転でした(笑)。
- 星野
-
確かに多方面の知識を持っているので、「竹野さん、この患者さんこうだけど、どうしよう?」とよく声をかけられていました。でも徐々に病棟でも私たちも一緒に考えよう! という雰囲気になってきたと思います。皆に問題意識が芽生えてきていますね。これは、竹野が根拠を持って、言葉にして伝えてきた成果だと思います。きっと自分で動いた方が早いんでしょうけれど、相手にわかるように地道に努力してきて、やっと結果が出始めたところです。
日々の退院調整の中で、患者さんやご家族の思いと、病院運営上の入院期間との
ギャップ等は、どのように埋めていらっしゃいますか?
- 竹野
地域包括ケアカンファレンス
この点が最も難しいです。でも困った時は、『私は看護師なんだ』というところに立ち戻りますね。そして看護師ができることをやります。患者さんやご家族のお話に耳を傾けて、時には板挟みになりながらも最善を尽くすように努力しています。その辺りは経験かなと思いますね(笑)。そして答えを急がないこと、時間が経つことで解決することもあるので、その後お互いが納得できるようにもっていきます。
- 星野
- 退院調整委員会という包括会議があって、そこで病院全体の話し合いをします。長期入院の方、退院できる方、包括ケア病床に移れる方の情報は共有していますので、その段階である程度調整はしていますが、実際には話し合った通りにはいかないこともあり、その調整を竹野と相談しながら行っています。
病院として取り組んでいらっしゃることはありますか?
- 星野
コンソーシアム風景
地域包括会議や勉強会は定期的に行っています。日々の業務の中では、疑問に思ったことや質問があったら、いつでも竹野と私に聞いていいよという雰囲気作りはしていますね。
あと、相模原町田地区介護医療圏インフラ整備コンソーシアムという取り組みの一環で、北里大学の先生が中心となって研修会を行っていて、それに参加しています。院外の方々と触れ合うことで視野が広がり、日々の業務に活かせることが増えていると思います。
今後の退院支援の目標と課題を教えてください。
- 星野
退院調整カンファレンス
目標は常に『患者さんとそのご家族が望むところに帰っていただくこと』です。そのために入院時から関わりながら、退院までをある程度、頭に描きながらケアをしていくことは意識して行っています。課題は、退院調整看護師の役割を担える看護師がまだ少ないことです。それぞれの力は持っていて、断片的にわかる人はいてもそれを誰に、いつ連絡して、その後どのようにして……と、トータルコーディネートできる人が足りていないですね。
- 竹野
-
第2の竹野の育成とよく言われます。でも私が2〜3人いたらうるさくてしょうがないですよって、お答えしています。冗談はさておき、私が退院調整をするようになって7年目ですが、最近では患者さんが一般病棟にいらっしゃる時から、スタッフみんなで、『この患者さんを帰すためにはどうしたら良いか』という視点で考えてくれています。だから地域包括ケア病床に移動になってからは、その速度に加速度がついて退院までもっていける。いい連携がとれていると思います。
今回、茂木看護部長さん、退院調整看護師の竹野さんと病棟をまとめる星野師長さんにお話を伺って、退院調整看護師の仕事の大変さがよくわかった。それは患者さんやご家族と病院運営側の意向を踏まえて、両者の間に立って調整するには、看護の知識だけではなく、退院後の生活を支えるための社会福祉情報やご家族の不安を解消するための説明、退院後の服薬など多方面の知識とそれをつなぐコーディネート力が問われる仕事だからだ。また退院に対して喜べる方ばかりではない生活背景や家族背景を踏まえて、相手の立場に立って考えられることも必要になる。そんな調整役を担う仕事について、竹野さんが最後に『終わりよければすべてよしという言葉があるように、最後に嫌な印象で帰られると病院の印象もわるくなる。そうならないようにやっています』とおっしゃった。最後の最後まで、いや退院後までをも見据えて調整をする退院調整看護師の役割は、今後ますます必要になることだろう。