Pick Up Hospital

さまざまなナースによる看護のカタチを徹底レポート Pick Up Hospital

NST・緩和ケアチーム・褥瘡委員会・訪問看護etc…さまざまなナースによるさまざまな看護のカタチを徹底レポート!
※掲載されているデータは取材当時のものです

Pick Up Hospital 13 [ 2011.10 ]

緊急入院の患者さんの多いCICUには、細かな変化をも見逃さない観察力と専門的な
知識・技術力はもちろん、患者さんを一番に考える熱いマインドが流れている。

JR秋葉原駅から徒歩7分、地上19階建ての白い外観がひときわ目を引く三井記念病院は、明治39年三井家総代三井八郎右衞門が慈善治療を目的に設立し、東京帝国大学と協力して一般患者の診療を行ったのが始まりです。現在、病床数は482床。創立以来の理念を変えることなく、二次救急、ICU・CCUネットワークに対応できる急性期病院、日本医療機能評価機構認定病院として、また臨床研修指定病院、20以上の学会の認定施設・研修施設としてその機能を発揮しています。
入院棟7階にあるCICU(冠疾患集中治療センター)には、急性心筋梗塞や重症心不全、解離性大動脈瘤など循環器系の重症患者さんが、毎日救急入院されてきます。臨床現場を支える看護師たちには、いつ患者さんを受け入れてもいいように臨機応変な対応が求められます。そんなCICUの看護について、主任の土居仁美さんにお話を伺いました。

三井記念病院 外観
社会福祉法人 三井記念病院
三井記念病院 外観写真

▲概観写真
(2011年9月15日グランドオープン)

〒101-8643 東京都千代田区神田和泉町一番地
TEL:03-3862-9111(代)
URL:http://www.mitsuihosp.or.jp/

■開 設 年/明治39年10月2日
■院   長/髙本 眞一
■看護部長/金子 八重子
■病 床 数/482床
■職 員 数/1,000名
■看護職員数/500名
■診療科目/内科、神経内科、内分泌内科、糖尿病代謝内科、血液内科、腎臓内科、膠原病リウマチ内科、消化器内科、呼吸器内科、循環器内科、精神科、小児科、外科、乳腺内分泌外科、消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、整形外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線診断科、放射線治療科、麻酔科、歯科・歯科口腔外科、緩和ケア科、病理診断科
■看護配置/一般病棟実質配置 7:1
■外来患者/1,100名(1日平均)
■入院患者/440名(1日平均)
■特殊施設/総合健診センター
■指定機関/2次救急病院、臨床研修指定医療機関
■認   定/(財)日本医療機能評価機構認定病院
■併   設/特別養護老人ホーム『三井陽光苑』
■交通案内/JR・東京メトロ・つくばエクスプレス秋葉原駅下車昭和通り口より徒歩7分



  • ▲特別病棟

  • ▲ナースステーション

  • ▲一般病室
CICU看護の特徴にスポットを当てて、ご紹介します。
看護主任 土居仁美さん
看護主任 土居仁美さん

CICUの看護の特徴や看護師に求められる点を教えてください。(Median編集部)

土居

土居仁美さん
看護主任 土居仁美さん

CICUには、急性心筋梗塞や心不全、解離性大動脈瘤など循環器系の重症患者さんが、毎日入院されてきます。生命にかかわることも多い疾患であるためスタッフには臨機応変な対応が求められます。看護師に必要なことは、まず患者さんの少しの変化も見落とさない高い観察能力、次に専門知識や技術力、そして患者さんやご家族への思いやりです。
心電図や酸素濃度を見るためのモニター類、人工呼吸器などをきちんと使いこなせて、それを適切にアセスメントし、判断につなげていくことで、早期発見につながると思います。ドクターへ患者さんの状況をどのように伝えるかによって、その後の治療に大きく影響しますから、私たちの細かな観察と患者さんの全体像を理解したうえでの判断が重要になる部署だと思います。

そのような観察能力というのは、キャリアを積むことで身について
くるのでしょうか?

土居

もちろんキャリアだけでは図れませんが、看護の第六感のようなものは経験を積むことである程度身についてくることではあります。若い人は、ベッド回りの機械の数値を追うことに目が行きがちです。それも大切ですが、患者さんをぱっと見たときの感覚というか発見は、経験によってある程度身につくと思います。それが何年ぐらいで身につくとは一概には言えませんけれど、患者さんの皮膚の状態や寝ていらっしゃる姿を見て、その方の今の状態がわかるようになるものです。数値だけに頼らない、そのような視点を大切にして欲しいですね。

こちらでは、どのような看護方式を取り入れていらっしゃいますか?

土居

CICUも一般病棟も固定チームナーシングをとっています。一人のリーダーがいて、その下にスタッフを配置するチーム制です。今年から2チーム制を導入して、年間を通じて行う業務改善や学習会などはそのチームで活動し始めました。日常的には、出勤後にリーダーの指示のもとで自分の担当患者さんが決まります。一部プライマリーナーシングも行っています。通常、合併症のない心筋梗塞の方は1泊2日ほどで退室されていきますが、重症の方は、どうしても長期化しますので、経過を継続して把握できるように、担当看護師がいた方がいいのではないかということと、あと入院時から重症でご家族の不安が強い場合にも、プライマリーナースがつくかたちで行っています。

プライマリーナーシングを行ってみて、いかがですか?

土居
担当患者さんが勤務日ごとに変わる中で、その方を病気だけでなく社会背景から把握して、看護計画を実践していくというのは、ベテランの看護師でも難しいことです。その点プライマリーナーシングですと、患者さんとゆっくり関わる時間がもてるので、その方の社会背景やご家族との関係など多くの情報をもったうえで判断できます。患者さんやご家族には、同じ看護師が声をかけることで親しみやすくなり、安心感からかさまざまな相談を受けるようになりました。このかたちの方が私たち看護師も納得したうえで看護にあたれますので、両者にとって良い関係が築けるのではないかと思っています。

CICUの看護師としてのやりがいを教えてください。

土居

心筋梗塞などの方は、病院到着後から治療までの時間が短ければ短いほど回復の過程が良好だと言われていますので、看護師には迅速な対応が求められます。そういう生命の危機に対面しながらもその後の回復に影響する重要な役割を担うことで、看護師にも自覚とやりがいが生まれてくるのではないかと思います。それに当院の場合、センター化していることで、患者さんがCICUを退室されても隣にある循環器病棟で、回復過程を過ごされますので、自分の担当した患者さんの経過を見ることができます。患者さんの回復過程を肌で感じられるということもやりがいにつながっていくと思いますね。

では、CICU看護の難しさ、課題はどのようなことだとお考えでしょうか?

土居
皆さんではないですが、突然の環境変化によってせん妄を起こす患者さんがいらっしゃいます。その予防策を立てたりしているのですが、どうしても閉鎖されている環境の中ですと防ぎきれない場合があり、対応には難しさが伴います。例えば、声かけひとつをとっても「ベッド上安静です」とか、「治療上動いてはだめです」、「足が動かせません」というように禁止事項が多くなりがちですが、まずできることを伝えるように工夫したりもします。そのうえ、いろんな機械に囲まれ、アラームが鳴り響き、24時間、人の出入りがある中で、だんだん精神的に追い詰められる方もいらっしゃって、精神的なケアの必要性を感じます。長期化すればするだけ、そのような方は増えますね。

土居さんご自身が、CICUでの看護の手応えを感じられる点は?

土居

重症度が高い患者さんの多い部署ですので、自分に任される部分が大きいという点ですね。先ほども言いましたように観察能力は大切ですし、その判断が遅れると大変なことになりかねません。「これくらいなら大丈夫かな?」と思ったことが、急変することもあり得ますし、逆に早めに見つけることで、早期発見にもつながります。24時間、患者さんの近くにいる看護師だからこそ発見できることも多いと思うんです。循環器科のドクターたちの協力体制もいいので、ちょっとおかしいなと思えば、すぐに対応してもらえます。
患者さんからは、「ここの看護師さんはよく気がついてくれる」「わかりやすく説明してくれて助かる」という声を頂くことがあり、スタッフたちの頑張っている姿勢が患者さんやご家族にも伝わっていると思うと、やっていて良かったなと思います。

ところで、こちらの『電子カルテ』は、独自のものであるとのことですが?

土居

2009年1月から導入しているものは当院オリジナルの電子カルテシステムです。これは日本を代表する看護学者である薄井坦子先生の提唱されている『科学的看護論』を日本で初めてシステム化して、開発したものです。
具体的には、患者さんを深く知るために『全体像モデル』を作成します。これは、私たちがめざす創造的看護に必要な患者さんがどういう方なのかを理解するためのものです。まず患者さんの『体』『心』『社会関係(家族、職業、趣味、生活習慣など)』を時の流れと共に見つめることをします。その後患者さんに必要な看護を知るために、患者さんが健康的に生活していくための条件を導き出すためのツールとして『立体像モデル』を完成させていきます。発達段階や健康障害の種類、健康の段階、生活過程の4つのカテゴリに分けて、事実を入力して、看護の方向性を考えていくことになります。スタッフ全員がこの方向性をもって相手の反応を把握することで、その人らしさを大切にした看護を展開できるのです。
  • 全体像モデル
    全体像モデル
  • 立体像モデル
    立体像モデル

三井記念病院で働く看護師さんの特徴は?

土居

看護に対して、みんな、熱い思いがあります。病院全体で「何かやろう!」という時には、看護部が一番早く動きます。みんなそれが患者さんに返るものだから……という思いがあるのだと思います。ナイチンゲールは「看護師は自分の仕事に三重の関心をもたなければならない。ひとつはその症例に対する理性的な関心、そして病人に対する心のこもった関心、もうひとつは病人の世話と治療についての技術的(実践的)な関心」という言葉を残しています。当院の看護部は『心のこもった関心』が特に強い傾向にあります。外部講師を招いて症例検討会を行うことがあります。その先生にも「心のこもった関心」という面が非常に強い、と言われます。とにかく患者さんのことを思って、「何とかしたい!」という思いを強く抱く看護師が多いようです。さらには「何かいい方法はないか」、「こうしたらどうか」というように、技術的関心も強いんです。あとひとつの理性的(知的)な関心なのですが、いつもそれが弱いと言われます。でもまずは心の関心がなければ、何も動かないですからね(笑)。心があってこその看護だと思っています。

最後に、これから看護師を目指す看護学生さんに、ひと言お願いします。

土居

院内・院外での学べる環境とチャンスはたくさん提供できると思います。看護部長は、「看護師の一人前は7年目」という考えを持っていますので、卒後教育プログラムも7年目までしっかりと組んであります。看護方針のひとつである『明るく楽しく仕事できなければ本物ではない。楽しんで仕事しよう』を合い言葉にFISH哲学の考え方も取り入れています。病棟ごとに手づくりポスターやサンキューカードなどを使って、仕事に遊びや創造的な要素を取り入れています。相手を喜ばせ、自分も楽しめる、そんな前向きな姿勢によってチームワークや向上心を高められる職場です。私たちと一緒に「へこたれない看護師」になって欲しいと思います。一人でも多くの仲間が増えることを期待しています。

今回訪れたCICUは、意外に落ち着いていた。それぞれが自分の役割を認識し、自主的にテキパキと動いている印象を受けた。お話を伺った土居主任は、CICUでの看護のやりがいについて「自分に任される部分が大きいこと」と語っていた。先を歩く先輩が、仕事のやりがいや手応えを感じていてこそ、次に続く看護師へ、真の看護の心が伝わるのだろう。そのために個人の成長に心を砕いている土居主任だった。


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