Pick Up Hospital
NST・緩和ケアチーム・褥瘡委員会・訪問看護etc…さまざまなナースによるさまざまな看護のカタチを徹底レポート!
※掲載されているデータは取材当時のものです
Pick Up Hospital 21 [ 2014.1 ]
まずは『人』を知ること。
職種の壁を越えた全職種合同研修が教えてくれること。
「身体疾患と精神疾患をバランスよく治療・ケアできる」ためには、当然知識や技術が必要であり、その習得のためには基礎研修や技術研修、段階別研修などの教育プログラムに沿った研修は欠かせない。しかし、それをこなしていくだけでは、『人』を対象とした看護師の仕事は務まらない。人を対象にするのは看護師ばかりではない、医師をはじめPT、OT、介護スタッフ、事務など全職種がそうである。また、『人』とは患者さんばかりではなく、一緒に仕事をしていくスタッフも対象となる。チーム医療をスムーズに、そして患者さんのために実践していくためには、まず『人』を知ることが大事。そう考えた袖ヶ浦さつき台病院が始めたこと。それが全職種合同研修だ。
今回はその全職種合同研修について、看護部長の竹内美佐子さん、さつき台訪問看護ステーション所長の玄永春奈さん、看護部の大越真絵さん、北村達子さん、そして看護師の青木拓也さんにお話を伺った。
袖ヶ浦さつき台病院
▲病院外観
〒299-0246 千葉県袖ケ浦市長浦駅前5-21
TEL:0438-62-1113(代)
URL:
http://www.satsuki-kai.or.jp/
■開設年/1983年2月
■院 長/菊池周一
■看護部長/竹内美佐子
■病床数/409床(一般病棟101床、回復期リハビリテーション病棟(I)90床、精神科救急入院病棟52床、精神科療養病棟44床、精神科身体合併症病棟32床、認知症治療病棟90床)
■診療科目/内科、外科、整形外科、心療内科、神経科、精神科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、リハビリテーション科
専門外来(神経内科・脳神経外科・認知症外来等)
健診・人間ドック・脳ドック
■看護配置/実質配置一般病棟7:1、回復期病棟13:1、精神科救急病棟10:1、精神科一般病棟15:1、認知症病棟20:1
■関連施設/さつき台訪問看護ステーション、さつき会ケアマネセンター、かずさアカデミアクリニック、ケアセンターさつき(障害者地域活動支援センター)、さつき台クリニック、介護老人福祉施設「袖ヶ浦菜の花苑」、介護老人福祉施設「つつじ苑」、介護老人保健施設「カトレアンホーム」、さつき台の家(障害者就労支援施設)
■交通案内/JR内房線長浦駅南口下車、徒歩15分
または長浦駅前発、小湊鐵道代宿団地行きバス乗車、長浦駅前五丁目停留所下車、徒歩1分
全体教育が仕事にどのように反映されていくのか?
全職種合同研修によってスタッフはどのように変わっていくのか?
全体教育がもたらしてくれるものとは?
- 看護部長
竹内美佐子
- さつき台訪問看護ステーション所長
玄永春奈
- ナーシングマネージャー
大越真絵
- ナーシングマネージャー
北村達子
- 看護師
2012年4月入職
青木拓也
全職種合同研修の発足意図と目的を教えてください。(Median編集部)
- 竹内
看護部長 竹内美佐子さん
私たちが目指すのは水平的なチーム医療です。セクショナリズムをなくし、職種を超えた人間関係を構築してほしいと思っています。そのためには、まず『人』を知ること、人として仲間と接し、さまざまな人と知り合いになることが大切だと考えています。
仕事をするうえで、相手のことを知らない場合と、相手がどのような人なのか知っている場合とでは、コミュニケーションの質が違ってきます。同じ言葉でも知らない人から言われることで誤解を生んでしまうかもしれません。また、理解の内容も変わってきます。
そういった弊害をなくし円滑に仕事を進めていくには、相手を知ることやいろいろな人と知り合いになっておくことは、とても重要なことですよね。
全職種合同研修を立案する際に留意された点はどのようなことですか?
- 竹内
新人研修
つい最近まで学生だった新人看護師に、いきなり社会人としての姿勢や行動を求めてもできませんよね。また、看護師としての役割を一言で説明することも困難です。全職種研修においてあらゆる職種の人と話をし、コミュニケーションを取ることでそれぞれの専門職について理解するとともに、自分のことも理解してもらう、そしてそれが仕事をスムーズにさせ、また、仕事の楽しさにつながっていく。そうなるためには、対話をすることが大事だと考えています。
研修においてはバス旅行やゲーム、そしてグループワークを取り入れています。まずは仲間と話をし、理解し、対話をしていく。対話ができる関係性を築ける研修内容にしようと立案したつもりです。
具体的にはどのような内容の研修を行っていますか?
- 玄永
さつき台訪問看護ステーション所長
玄永春奈さん
1年目の4月は、さつき会の関連施設を見学に行くバスツアーを行っています。バスを乗り降りするたびに席替えをして、いろいろな人と話をする機会を増やします。また、8月と2月には講義や先輩の体験談、社会人基礎力について自己評価などを行います。7~8班に分け、グループワークをしながら意見交換をしていきます。最後にアンケートを行い、理解度を確認します。
全職種合同研修についての反応や効果についてはいかがですか?
- 大越
ナーシングマネージャー
大越真絵さん
精神療養病棟勤務
対話をすることの大切さを感じますね。特にグループワークは充実した意見交換ができます。新人においては、今後の課題に気づいたり、他の人の意見を聞くことで自分の業務を振り返るきっかけとなったりしているようです。普段は自分の部署だけで考えていることを、他部署の話を聞くことで新たな意見を聞くことができ、それがモチベーションアップへとつながっています。テーマについてさまざまな意見交換をしてく中で、チームワークも生まれていくのだと感じています。
- 北村
ナーシングマネージャー
北村達子さん
手術室勤務
管理研修においても、課題図書がありそれを読んでから研修に臨むのですが、その中で目標の共有、情報の授受と状況把握、コミュニケーション・対話、実効性、主体性、一体感、水平性などの項目において評価をしていくので、きちんと振り返ることができますね。最初は参加していなかった医師も、今では積極的に話に参加してくれるようになりました。普段はしゃべらないようなことについて話すので、楽しんでいるようです。話をしていくことで、対話ができるようになっていることを実感しますね。
研修の一環として、上司評価というものがあるそうですが?
- 竹内
全職種合同研修
業務について客観的に評価することは大切です。私たちは職場ごとにそれぞれの項目をレーダーチャート化します。部署によってレーダーチャートの形に違いが出て、それを比べると自分の部署の課題が見えてきます。もちろん客観的な評価は必要ですが、それを負担に思ってしまう場合もありますね。そこでいつも評価をする上司を反対に評価してみようと考えたのです。
- 大越
- 管理職としてどう見られているのか、が評価されるわけですから、緊張しますよ。素晴らしい点や頑張ってほしい点、応援メッセージなどをいただくのですが、みんなよく見ているなあ、と感心してしまいます。評価によって気づかされることもあります。これもお互いを知ることで、上司と部下のコミュニケーションにつながります。
- 竹内
- 私も含めて評価されるのですが、管理職もそうでないスタッフも、管理職とはどういうものか、管理職の役割について、考える機会にもなっています。
教育委員会として今後の課題は?
- 玄永
教育委員会
今後は中堅看護師の研修にも力を入れていきたいと思います。中堅ともなると、業務に慣れ、看護の仕事についても自分の考えが出てきて、それを実践しなければなりません。指導者としての責任も出てきます。その時期に、改めて初心を思い出し、振り返ることができる研修内容にしていけたらと、考えています。そのことが新人看護師の教育にもつながりますからね。
看護師の青木拓也さんに、全職種合同研修会について
お話を伺いました。
全職種合同研修会を受けてよかったと思うことは何ですか?
- 青木
青木拓也さん
2012年4月入職
内科・外科混合病棟勤務
いろいろな人と知り合いになれたことです。最初の研修でバスに乗って移動していたのですが、バスに乗るたびに違う人と話をするので、知り合いが一気に増えました。そのため、違う部署に行っても知り合いがいて、ホッとしますね。
最初はとても緊張しているので、知り合いが多いとそれだけでも安心します。
研修において勉強になったと感じることは?
- 青木
-
いろいろな人の意見や話を聞くことができるのは勉強になります。2年目になって研修に参加した時は、グループワークなどを通してみんなの意見を聞いていると、「すごく成長してる、自分はまだまだだ」と感心したり、反省したりしますね。とても刺激になります。
また、研修の中で「前に進む気持ち」についての話が強く印象に残りました。研修はモチベーションを高めてくれる場だと感じます。
研修はどのように仕事に活かされていますか?
- 青木
-
職種が違っても話しやすいということは、とても大切だと思います。それができるのは、研修で知り合いになっているからです。研修の中でも、また、普段でも自分とは違った職種のスタッフが、どのように患者さんに関わっているかを知ることができるのも、自分の看護の勉強になっています。
また、他部署の人とプライベートで食事に行ったり、スポーツをしたりしています。知り合いが増えると、自分の世界も広がります。
袖ヶ浦さつき台病院では、清掃を委託で依頼しているそうだ。しかし、外部スタッフと病院のスタッフの間に垣根はない。同じように挨拶をし、声をかける。院内のスタッフのそんな姿勢によって、外部のスタッフも病院スタッフの一員のように、患者さんに対して温かく接するし、挨拶もする。それはコミュニケーションという大げさなものではないが、笑顔になれる、気持ちがいい、という良い結果が生まれる。そこにはセクショナリズムも、職種も関係ない、「人」とのつながりがある。
スタッフが自分の看護を実践していくためには、自ら考え、行動できる看護師になることが大切である。1人のスタッフが成長するには、その過程があり順序がある。まずは何を学ぶべきか、何が大切なことなのかを知らなければ目的を達成できない。その最初の第一歩を全職種合同研修が教えてくれる。
「管理職にできるのは環境をつくること、チャンスを与えること」と看護部長は言う。手取り足取りではない、突き放すのでもない、そんなスタンスの環境づくりが、スタッフを自然と成長させていくのかもしれない。