Pick Up Hospital
NST・緩和ケアチーム・褥瘡委員会・訪問看護etc…さまざまなナースによるさまざまな看護のカタチを徹底レポート!
※掲載されているデータは取材当時のものです
Pick Up Hospital 23 [ 2014.9 ]
茨城県北部で唯一の救命救急センターとして
地域住民の命をつなぐ日立総合病院の取り組み。
日立総合病院の救命救急センターでは、24時間365日『断らない医療』をめざし、医師はじめ看護師、薬剤師などの医療スタッフが待機している。救急搬送の中でも特に受け入れが限定される熱傷患者さんへの対応も行っており、地域の救急隊からの搬送要請も多いという。しかし、急変される人は院外ばかりではない。院内での急変にも対応しているのが『院内急変時コールシステム』だ。コードブルーとRRSと呼ばれる2つのシステムが発動されると、METと呼ばれる急変対応チームが行動を開始する。METは救急連絡を受けてから、コードブルーでは5分以内、RRSでは30分以内に現場へ到着する院内の救急隊のような役割を担っており、そのシステム運用が2014年5月から本格的に始まったところである。
日立総合病院
▲病院外観
〒317-0077 茨城県日立市城南町2-1-1
TEL(0294)23-8334
URL:
http://www.hitachi.co.jp/hospital/hitachi/
■開設/1938年1月
■院長/奥村 稔
■総看護師長/芳賀百合子
■病床数/543床(内がんセンター100床)
建屋建て替え中に伴い、現在の稼働病床数は424床
■職員数/870名(看護職415名)
■診療科目/内科、心臓血管外科、循環器科、神経内科、小児科、新生児科、外科、整形外科、形成外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、産婦人科、耳鼻咽喉科、放射線診療科、歯科、リハビリテーション科、救急総合診療科
■看護配置/一般病棟7:1
■看護方式/固定チーム継続受け持ち制看護
■外来患者/1,014名(1日平均・2013年度)
■入院患者/360名(1日平均・2013年度)
■付属施設/日立総合健診センター、茨城県地域がんセンター、救命救急センター(2012年10月稼働)
■交通案内/JR常磐線『日立駅』中央口下車、バス/日立駅から日立総合病院行(直通バス)。日立駅から国道経由環状線または多賀・水戸方面行に乗車、日製病院前で下車
▲救命救急センター
▲救命救急センター内
▲熱傷用浴室
県北部地区の3次救急医療を担う救命救急センターの
看護師に求められること、看護のやりがいなど。
- 総看護師長
芳賀百合子
- 救命救急センター
師長
寺田 直子
- 救命救急センター
主任
富岡真紀子
- 救命救急センター
看護師
宇野 翔吾
- 救命救急センター
新人看護師
小野こずえ
「救命救急センター」の運用までの経緯と役割についてお聞かせください。
(Median編集部)
- 芳賀
芳賀百合子総看護師長
元々2次救急には対応しておりましたが、県北部地区には当院ほどの規模をもつ医療機関が少なく地域の方々は救急医療についての不安を抱いていらっしゃいました。そのような中で国と県と日立市などの行政と協力し、当院が2012年10月から県北部地区唯一の救命救急センターとしての機能を備えたセンターを運用したという経緯があります。ですから日立市だけでなく近隣地区からの救急搬送要請も受け入れ、24時間365日『断らない医療』を提供できるように体制とスタッフを揃えています。今では月間で400〜500名の救急搬送を受け入れるまでになりましたが、発足当初はさまざまな苦労もありました。
センターの運用スタート時に各部署から集まった看護師は54名でした。皆がそれまでの診療科も違えば、教育の背景も違い、同じ方向を向いて働くためには、ルールづくりを一から始めなければなりませんでした。師長たちはじめスタッフは、さまざまな要望をまとめ今の形にするまでが大変だったと思います。
同じ方向というと?
救命救急センターのめざす目標のようなことでしょうか?
- 寺田
センター師長 寺田直子さん
私たちがめざしているのは、『思いやりのある質の高い看護と安心して働ける職場』です。その中でも高度医療の充実に重点を置いて日頃から取り組んでいます。運用スタートからまだ2年なのですが、その間は、ただがむしゃらに進んできたという状況です。これからはセンターでの看護を1つずつ振り返り確認しながら、質の向上のために改善していく段階ですね。私たち働いているスタッフが自信をもって提供のできる医療・看護にしていきたいと思っています。
センター全体では『断らない医療』を掲げられていますが、
その実態をお聞かせください。
- 寺田
救急搬送の様子
救急搬送者の受け入れ要請には基本的に断ることはしません。それでもマンパワーが足りないなどどうしても受け入れられないことが年に数回あります。センター運用の基準に『応需率90%以上』というのがあるのですが、2014年度は月平均で98%は維持されています。万が一断った場合でも先生たちと「何とかできなかったのか?」とカンファレンスを開き、次への対応を工夫しながら何とか100%の達成をめざしている最中です。何としてでも命を救わなければという熱意を持ったスタッフが多いので、遠くへの搬送は救命率にも影響しますし、できるだけ避けたいと思って取り組んでいます。
地域の方から信頼を寄せられていると感じられる時は
どのような時でしょうか?
- 富岡
センター主任 富岡真紀子さん
私はセンターの中でも初療を担当しています。救急搬送されてくる患者さんが、「日立総合病院へ行きたい」と希望を出されて運ばれてくるケースを何度も経験していますので、県北部救急医療の『最期の命の砦』だということを実感しますね。そのような自覚をもって初療に臨まなければならないと思って日々働いています。これからも患者さんから選ばれる病院でありたいと願っていますし、皆様からの期待に応えられるだけの質を確保しなければならないという自覚をもって、常日頃からスタッフ一同勉強に励んでいます。
救命救急を担っている看護師に求められる点を教えてください。
- 芳賀
カンファレンスの様子
救命救急の専門知識やスキルはもちろん必要ですが、救急場面で冷静にいられる平常心、これを維持できる能力は重要だと思います。どんな環境にでも適応できる適応力、そして人に対する愛情をきちんと持っていることでしょうか。そのためには自分自身の死生観をもっていないといけませんね。救急場面では患者さんのご家族への対応も求められます。突然の出来事に現状を受け入れられないご家族の不安を取り除いたり、そばにいて思いを傾聴したりするなどのメンタル面のケアを心がけて欲しいですね。救命救急センターで働く看護師には特にこの4つをもっていて欲しいと願っています。
こちらのセンターの特徴などをお話しください。
- 寺田
-
まず、救急車は一般道から直接2階の救急入口へ入れますから、救急患者さんの迅速な受け入れが可能です。そして初療の段階では、向かい側にCTと検査室が用意されていますので、すぐに検査・診断ができ、いざという時には初療室がそのまま手術室にもなる設備も備えています。一刻を争う救急医療ですから、効率の良い動線確保が重要です。ここまで揃っている設備を持つセンターは珍しいと思います。初療処置後の患者さんは大画面のモニターで一括して観察できるようになっています。設備等では日立の技術力の高さを感じます。センターには看護師以外のスタッフもたくさん勤務しています。特に薬剤の調合作業には専用のコーナーがありますから、任せていて安心ですね。
また、患者さんの搬送以降、ご家族の方は待機していただくことになりますが、畳室を備えた控え室がありますので、心身ともに休めながら待っていただけます。
救急病棟入り口
CT
ICU
薬剤師による調合
浴室
家族控え室
次に『院内急変時コールシステム』についてお聞かせください。
- 宇野
センター看護師兼METメンバー
宇野翔吾さん
当院には、急変が起きた後に行動する『Code Blue System(コードブルーシステム)』と、急変が起きる前に行動する『Rapid Response System(ラピッドレスポンスシステム・RRS)』という2種類の院内急変コールシステムがあります。急変対応には、『Medical Emergency Team(メット・MET)』という専任のチームが出動し、現場確認から処置・収容、現場でのスタッフとの調整・サポートを経て当該科医師や主治医と連携しながら対応にあたります。
以前にも99ダイヤルシステムという急変対応のシステムは存在したのですが、全職員1,200名にアンケートを取ったところ、知名度が44.7%で使用率が2.4%という結果でした。利用されていない実態がわかったんです。それを改善する方針が2012年12月頃に出て、翌年2月から改善に着手し、体制が整って、今のシステムがスタートしたのは、今年の5月からです。
これまでの発動件数と院内への浸透度はいかがでしょうか?
- 宇野
全スタッフが携帯している専用カード
今年5月1日から7月末までに14件出動しました。そのうち13件がコードブルーで、1件がRRSでした。想定以上の出動件数で、院内に浸透してきていることを実感できました。廊下などで事務系のスタッフとすれ違った時に、名札カバーの中に専用のカードが入っていることがわかると「少しは浸透してきているのかな」と嬉しくなりますね。実際の出動途中に声をかけて下さる方もいますから、METとしての力がわいてきます。
実際に運用してみた感想をお聞かせください。
- 宇野
-
運用してみて感じたことは、今はまだ基準が曖昧な点があり、「これで呼んでいいの?」などコールされる方が迷っていることがあるようです。改善点なども聞いていますので、その辺りを整理して、勉強会やシステムの見直しなどに着手できたらいいなと思っています。実際出動した際には、「院内の救急隊だな」と思いました。状況がわからない中で周囲の方から情報を得て、患者さんをトリアージして処置へ進むという流れでした。その訓練を救急外来にいる時に行っていこうと思っています。
- 富岡
-
METメンバーは『今日の担当』を決めて勤務中はいつでもコールを受けられるようにしています。私は今までに3回くらい出動しましたが、院内の職員の方から「救急だ!」と思って電話してきてもらえることが嬉しいですね。医療スタッフだけではなく、事務など様々なスタッフと連携することの素晴らしさを感じます。病院全体で取り組んでいる姿を見ると、「いい病院だな〜」と思います。そして実際に成果が出ていることに素晴らしさを感じています。
今後どのような課題がありますか?
- 宇野
-
当院くらいの規模の病院では患者さんの安全面を考えると、このような急変時対応システムがあって当然だと思っています。それを院内にいかに広めるかが運用の鍵を握っています。今後も全職員への浸透と意識改革が必要ですが、まだスタートしたばかりですから、浸透はこれからですね。医療安全の部署や救急委員会からも取り組みが始まっていますから、今後に期待をしています。具体的な取り組みとしては、職員対象の救急研修に『救急シミュレーションコース』を企画することや新人〜2年目を対象にレベル別研修でRRSとMETについての学習と気づきに関する学習会を実施していくこと、防災訓練同様の訓練を実施することなどが話し合われています。いずれにしても病院全体での取り組みが重要になってきます。
今年4月に救命救急センターに入職した新人看護師
小野こずえさんにお話を伺いました。
救命救急センターへの配属は希望されたのでしょうか?
- 小野
今年の新人看護師 小野こずえさん
入職時に第三希望まで聞かれ、第一志望を救命救急センターとしました。それが叶ってとても嬉しかったです。同期は50名くらいなのですがそのうち5名が同じ配属となりました。病棟には、男性看護師の方も5名いらして、いろいろご指導頂いています。入職してあっという間に5ヵ月が経ちましたが、学生の頃との違いは、どんな仕事にも責任が伴うということです。時間の経過とともにわかってきたことも多いのですが、反面怖さもあり、緊張感はすごくあります。それでもここで救命救急の看護師として自律できるようになれればと思っています。まだ先のことですけれど(笑)。
入職後の教育はどのような形で行われていますか?
- 小野
-
看護師が学ぶべき治療や疾患については病院全体で研修があり、基本的なことを学びます。その後部署への配属となり、特徴ある疾患や治療についてはセンターで学びます。これが1年間の目標という形になっていて、何十項目ものチェック項目を消化しながら進んでいっています。病棟ではプリセプターさんが専任で1名ついてくださっています。メンタル面や知識面などを主にサポートしてもらっている存在です。でもいつも勤務が一緒とは限らないので、センター全体で私を見守ってくださいます。
特に力を入れている点は、月に1回、自分の看護を4〜5人の先輩たちと振り返るフォローアップがあります。その中には師長さんや主任さんもいらして、私に『大事にしていって欲しいこと』などを話してもらえます。実際に働いてみて思うことは、看護師には専門的な知識や技術だけではなく、社会人として大切な接遇や言葉遣い、そして思いやりなども身につけていく必要があるということです。患者さんにとって一番大切なことを考え、不快な思いをさせない看護が提供できる看護師になりたいです。
2012年10月に運用が始まり2年弱が経過した救命救急センターは、最新鋭の設備が整い、スタッフの動線を考えて設計されており、働きやすそうな造りになっていた。実際に働いているスタッフの方たちも気さくで、緊張感のある中にもチーム医療の和のようなものを感じた。また取材中『思いやり』という言葉をそれぞれの方から聞くことがあり、この救命救急センターに流れている思いやりという空気を知ることができた。言葉で言うほど簡単なことではない思いやりの心が浸透している病院だと感じた。
コードブルーとRRSという2つの院内急変時システムは、前回までの99ダイヤルの利用率2.4%を超えただろうか? 今後も病院全体での取り組みを続けていくとのことだったが、一人でも多くの急変患者さんが救われることを願っている。
そして、2015年度には新棟もオープンし屋上にはヘリポートも設置される予定。日立市だけでなく近隣医療圏からも多くの救急搬送患者さんを受け入れ、さらなる『断らない医療』をめざして欲しい。『県北部の最後の命の砦』として……。