Pick Up Hospital

NST・緩和ケアチーム・褥瘡委員会・訪問看護etc…さまざまなナースによるさまざまな看護のカタチを徹底レポート!
※掲載されているデータは取材当時のものです
Pick Up Hospital 10 [ 2010.9 ]
小児循環器看護のエキスパートとして
認定バッジを胸に、小さな命を支える看護師たち。
循環器病専門病院として全国でもトップクラスの医療実績を誇る榊原記念病院。その小児病棟では、小児循環器専門の看護師たちが日々、先天性疾患の治療のために全国から集まる小さな命を支えています。今回は循環器疾患に特化したエキスパート看護とその教育について注目してみます。
財団法人日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院
▲地域支援型の循環器専門病院
〒183-0003 東京都府中市朝日町3-16-1
TEL:042-314-3111
URL:
http://www.sakakibara-heart.com/hospital/
■開 設 年/1977年11月4日
■病 院 長/村上 保夫
■看護部長/三浦 稚郁子
■病 床 数/320床 <循環器250床、一般救急(一次・二次)70床>
■職 員 数/520名
■診療科目/循環器内科、循環器小児科、心臓血管外科、末梢血管外科、心臓リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、内科、外科、小児科
■看護配置/7 : 1 入院基本料 7:1(実質配置)
■入院患者/217名(1日平均)
■指定機関/二次救急指定病院
■関連施設/榊原記念クリニック、榊原記念クリニック健診センター
■交通案内/(1) 京王線「飛田給駅」(京王線新宿駅より約20分・急行利用して調布乗り換え)北口より徒歩約15分、バス約5分
(2) 西武多摩川線「多磨駅」より徒歩約20分、バス約7分
(3) 京王線「府中駅」(4番のりば)よりバス約20分
(4) 京王線「調布駅」(12番のりば)北口より「飛田給駅」経由にてバス約15分

▲小児ICU

▲小児病棟の明るく心が
なごむ装飾

▲毎年にぎやかに夏祭りを行っている
患児のストレス緩和とご家族の精神面をフォローするかかわりを大切に。

- 小児病棟 副主任
永杉香織さん

- 看護部長
三浦稚郁子さん
循環器病専門の小児病棟があるのは、全国でも珍しいと思うのですが、どのような患者さまが多いのでしょうか?(Median編集部)
- 永杉

小児病棟 副主任 永杉香織さん
確かに我が国では循環器の専門病院の中で、さらに小児病棟や小児ICUがある施設となると、余り多くないですね。特に当院の場合、どんな対象の患者さまでも受け入れる姿勢ですので、24時間365日、患者さまは全国から来られます。例えば、地域の病院で生まれたけれど、先天性の循環器疾患があり、これ以上は専門病院で……という医療機関から患者さまをご紹介いただくことは少なくありません。緊急の場合は、調布飛行場までヘリで搬送され、当院へ運ばれてくることもあります。
小児科全体で2009年には、小児血管外科手術を475件、小児心臓カテーテル検査・治療を661件行いました。これは全国でもトップクラスだと思います。
それだけ多くの患者さまを全国から受け入れるための看護体制はどのようにされているのでしょうか?
- 永杉

採光を配慮した明るい院内。
エプロンはキティちゃん柄
小児病棟では、先天性疾患の子どもたちの術前・術後を看ていますから、一律に○○ナーシング方式と決めるのではなく、病児一人ひとりの状態に応じて、看護方式を柔軟に変えています。病棟のミーティングで話し合いながら、プライマリーになることや機能別になることもあります。4床の多床室が6室、個室が6室、ハイケアユニットが2床、合計32床あり、看護師は日勤帯で5?6人、夜勤帯は3人体制で勤務しています。小児ICUでは出生直後から生命の危機にある重篤な先天性疾患の病児が多いので一人当たりの看護師の人数も多く配置していますし、プライマリーでケアにあたっています。いずれも病児とご家族が、少しでも安らげる環境づくりに努めています。
病棟づくりという点では安全と安心を第一に考えられているとのことですが、どのような工夫がなされていますか?
- 永杉

プレイルームにある防音室。
他には畳スペースも設置されている
小児病棟の床は、通常より弾力性に富んだ素材を利用しています。子どもはとにかく動き回りますから、転んだりしたときにケガをしないように配慮されています。お母さんにはベッドから離れる時には柵を利用してもらったりクッションを置いたりして、病児の転落を防ぐような呼びかけを看護師からも積極的に行うようにしています。天井にはプラネタリウム、ベッド周辺は空の壁紙を使うなど、病児の精神的なストレスを少なくするための工夫は病棟全体に施されています。廊下の壁には障害を持つ子どもたちの絵が飾られていて、感性豊かな表現に驚かれるご家族もいらっしゃいます。

ナースステーションからプレイルーム
が見渡せる広々とした設計

すべての病室の廊下にある
ナースコーナー

壁には色鮮やかな絵画が飾られて
いる。障害を持つ子どもが描いた
絵に心が癒される
生命に直結する循環器ならではの精神的なストレスは、病児はもちろんそのご家族にもあると思うのですが、看護で重視されている点を教えてください。
- 永杉
-
子供のストレス軽減のためには、ご家族は不可欠な存在であり、そのため入院中も付き添いを希望されるご家族が多数を占めます。不安を抱える病児やご家族が一緒に治療を受けることが安心にもつながります。CHDやその家族は成長発達や今後の生活など、さまざまな不安を抱えています。正しい情報の提供はもちろん、同じCHDをもつ家族同士のコミュニケーションが円滑にできストレスの緩和につながるよう、コーディネートすることも心がけています。また病児の心身の発達を意識した看護の提供を考え、保育士からもさまざまな遊びの提供をしてもらうことで、病児の成長発達を促せるよう協力体制をとっています。
退院に向けても、安心して育児ができるようなサポート作りを心がけています。在宅医療が必要な場合にはソーシャルワーカーとの連携を図り、地域での社会資源が十分に活用できるようにしてもらっています。ご家族が退院後の生活に向けて不安を軽減できるよう、有効な退院指導を実施していくために病棟スタッフは日々勉強に励み、病児やご家族が安心して過ごせるような看護を提供できるよう努めています。
永杉さんにとって、小児循環器看護のやりがいは何ですか?
- 永杉

体外式人工呼吸器RTXを装着中の病児。
良好なコミュニケーションは笑顔から
以前は成人対象の看護をしていたのですが、ここで小児看護を経験して視野が広がりました。小児という成長発達段階にある過程の中で、いかに治療や看護を提供していくか……。成長しているわけですから、そこに無限の可能性を感じることができますし、やりがいにもつながっています。相手は純真無垢な小児なので、眠いときは眠いし、遊びたいときは遊びたい。時には予測不可能なことも起きます。でもキャリアを積めば、その子のライフスタイルに合わせた看護を考えられるようになります。
疾患によっては、手術は1回では済まないことも。2?3回の手術を通して、病児の成長過程を追いながら看護できることは、多くの手応えを感じられますね。こちらがパワーをもらい、勇気づけられることもたくさんあります。反面、無限の可能性を信じて看護を続けてきても、息絶える命もあり、やるせない気持ちになります。でもそれも小児看護。全部を受けとめて、次につながるケアを心掛けています。
看護師の皆さんの襟に付いているSRNというバッジは、エキスパートの印ですか?
- 三浦

『SRN認定バッジ』
認定証は下のキャリアラダー図を参照
当院独自の循環器専門看護師(SRN:Sakakibara Registered Nurse)の認定バッジです。これは1990年からスタートした制度で、当院の看護師は約3年間の研修プログラムを終えて、一定の基準をクリアすると審査が行われ、認定されます。全員が対象となり30項目に及ぶ評価表を使って150点満点で審査します。過去4年間の合格率は68.7%でした。審査は自己評価と管理者評価で行い、100点を合格ラインとしています。
当院に入職すると、循環器看護の一通りのスキルは身につきます。と言いますか、身につけなければ看護師自身、看護の手応えを感じにくいのではないかと思います。時々、他施設の方から「榊原記念病院の看護師さんの循環器の知識がすごい」とお褒めの言葉をいただくことがあるのですが、循環器の専門病院として看護師が当然身につけるべきスキルの習得にチカラを注いできた甲斐がありました。
教育研修システムはどのようになっているのでしょうか?
- 三浦
-
研修プログラムは、専門知識の習得のための集合教育と、技術習得のためのOJTによる現場教育から構成されています。新人看護師はキャリアラダーの1bから始めて、1a、2b、2aまでをおおよそ3?4年で修了していく計画となっています。2aをクリアした時点でSRN認定の審査を受け、認定されるとバッジ、認定証、月額2万円の手当が支給されます。その後、看護実践モデルとして臨床経験を積んでいきエキスパートになります。さらには、日本看護協会の認定看護師や専門看護師になる看護実践コースとマネジメントコースに分かれて、キャリアアップしていくことになります。
現在、4割の看護師がSRNとして勤務しています。その他には日本看護協会の認定看護師(皮膚・排泄ケア1名、感染管理1名、手術看護2名、集中ケア1名)と専門看護師(急性・重症患者看護1名)が活躍しています。

CPR研修1:すべての新入職員に
心肺蘇生法の演習を行っている
(心臓マッサージ)

CPR研修2:バックマスクの練習
>> キャリアラダー図

希望者には海外研修のチャンスも
最後に教育面で重視されている点を教えてください。
- 三浦

看護部長 三浦稚郁子さん
よく循環器看護の専門教育と言うと、循環器疾患や看護の専門知識・技術を習得することに重きを置いていると思われがちですが、確かに1年目はそのような内容の研修会を重点的に行ないますが、その後はアサーティブネスで豊かなコミュニケーション能力を養い、受療者中心のチーム医療の中で看護が提供できるようにコミュニケーションスキルや問題解決能力をロールプレイング研修等で学んでいきます。そのため研修の企画に充分な時間を割き、工夫を重ねて実施しています。看護は人が相手の仕事ですからコミュニケーション能力は特に重視して教育していますので、自己のコミュニケーションスタイルなどをプロセスレコードで振り返り、グループワーク等で他者の評価を受けることにより、“心に届く看護”のエキスパートを目指していきます。技術や設備はもちろん、看護に大切なものは、「Heart to Heart」です。受療者が納得される看護の提供と受療者にとって安全で安心な看護の提供が、私たちの目指す理想の看護です。

ただでさえ看護師には難しく思われがちな循環器看護に加え、対象が小児である今回の病棟。確かに心電図、除細動器、人工呼吸器など、検査や治療に使う医療機器が多く、看護師に求められる知識や技術のハードルは高い。小児の成長発達を考えた看護とご家族への精神的なフォローの難しさも感じた。しかし、そこには無限に広がる可能性を持った小児の生命を、チーム医療で見守っていける大きな喜びがあることを教えてもらった。